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カテゴリ:日々のこと
12月に入り、日々ばたばたと過ぎて行きます。仕事も多く、この時期の1ヶ月は早く感じるのは皆様も同じことと思いますが、気がつけばもう12月初旬は終わろうとしています。年末には、「年内になんとか」と来院される患者さんが増えてきます。仕事のこと、家庭のこと、はたまた気分的なもの、いろいろと理由がありますが、とにかくこちらも予定がコミコミになって怒涛の自転車操業の日々が続きます。
この時期になると、数年前に年末の外来に受診されたある患者さんを思い出します。 30代半ばのキャリアウーマンであるA子さん、就職してから仕事一筋で独身。外見はモデルとみまごうばかりの綺麗な女性でした。以前から鼻に蓄膿をわずらっていましたが、仕事が忙しいのと、生来病院嫌いのこともあって、なかなか病院に足が向かなかったのですが、いよいよ鼻で呼吸がしずらくなって、臭いも全くわからなくなってきたため、意を決して病院を受診されたのです。 head&neckが鼻を見ると中はポリープで充満しており、これは手術が必要と判断しました。そのことを彼女に伝えると、「手術なんてとても無理。仕事が年明けから入っているし、そんなことでやすめないわ」との返事でした。疾患について説明をして、この状態をよくするには手術しかありませんが、悪性の疾患ではないので、良く考えてまた受診してもらうようにお話をして、1度目の診察は終わりました。 さて、外来最終週の12月20日。彼女がまた受診しました。 「先生、手術することにしました。今週やってください」 「ええっ?今週ですか?そ、それはちょっと無理ですよ。予定手術は込み合ってますし・・」 「でも、年明けはもう予定が一杯なんです。そこをなんとかして下さい。決心がついたときにやらないともう一生やらない気がするんです。」 「はあ・・少し待ってください」 ⇒手術予定表とにらめっこのhead&neck 「12月24日なら何とかなるかもしれませんが・・クリスマスイブですけどいいですか??」 「勿論大丈夫です。お願いします」 というわけで、クリスマスイブに全身麻酔の手術を行うことになりました。手術そのものは問題なく終了し、彼女は病室(個室)に帰室してきました。ご家族は病室で待っていて、head&neckが術後の回診に行き、異常がないか確認していたそのときです。バラの花束をもった青年が現れました。 一同、びっくりです。一体彼は誰なのでしょうか?勿論、親御さんも、head&neckも面識はありません。 彼は、いきなり彼女の枕元に立って、 「A子さん。無事手術が終わってよかったですね。ところで、、、このバラの香りがわかるようになったら僕と結婚してください!」「お父さん、お母さん、ぶしつけなことをして申し訳有りません。でも今来なければもう二度とこんな勇気はでないと思ったんです」 そういい残すと、病室から走り去ってゆきました。 一同、呆然としました。A子さんも呆然と術後の顔を赤らめて、バラを見つめています。 head&neckは部屋を去るタイミングを逸してしまい、突っ立ったまま周りを見回すと、彼女のお父さんと目が合いました。 head&neck「えー、あの、びっくりしましたね・・・あはは。」わけのわからんセリフ。 お父さん「えっ?ああ、はい。いやあ、。。。そうだ、A子、あいつは誰なんだ!?」 A子さん「えーと、その。あたしも良くわかんないんだけど。。顔には見覚えがあるんだけど・・・あっ!」 何か思い出した様子。 今しかない、と思い、head&neck病室を去りました。「それじゃあ、失礼しますね」 30分後。ナースステーションで仕事をしているとお母さんが真剣な面持ちで手招きしています。 お母さん「先生、お恥ずかしいところをお見せしました。・・・で、はずかしついでにお尋ねしますが、あの子の鼻は治るんでしょうか?」 head&neck「もちろんですよ。大丈夫です」 お母さん「臭いもわかるようになりますか?」 head&neck「おそらくは。でも、蓄膿がよくなってもたまに臭いが戻らない人もいますけど・・」 お母さん「ええっ??それは困ります。あの子、香りがしなければ結婚できないじゃないですか!」 head&neck「いや、そういわれても。。とにかく様子見るしかないですよ。でも香りだけでそんな結婚まで・・」 お母さん「とにかくあの子の人生がかかってるんです、お願いします先生!」 ・・・さて、困りました。臭いの神経というのは鼻の上のほうに分布していますが、一度駄目になると戻らないこともあります。更には原因が本当に蓄膿なのかどうかが不明なのです。 A子さんが退院してからも受診するたびにどきどきしながら診察していました。なかなか嗅覚は戻ってきません。ああ、どうしよう。自分のせいかなあ・・・と気になります。 術後診察で嗅覚のことを尋ねるたびに、クリスマスイブのあの場面を思い出して、何となく気恥ずかしくなります。それでも、徐々に感覚が戻ってきているようでした。 数ヵ月後、A子さんの予約日に、彼女を診察室に呼び込むと、お父さんとお母さんが同伴して入って来ました。 その後ろから恥ずかしそうに入ってきたのは、スーツに身を包んだあのバラの青年ではありませんか。 無事に嗅覚が戻ったせいなのか、それとも彼の熱意が通じたのか。 「先生、私来週から苗字が変わります」 A子さんは、そういって艶やかに笑ったのでした。 ←低迷中。一日一回のぽちを。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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