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カテゴリ:診療
悪性腫瘍と言えば、まず最初に思い浮かぶのは癌ですが、「癌」と漢字で表記する場合、その腫瘍は上皮細胞から発生したことを意味します。その他にも様々な悪性腫瘍があります。骨肉腫、白血病、リンパ腫など、悪性の細胞の発声由来によって呼び名が変わります。しかし、専門的なことをくどくど言っても仕方がないので、患者さんに説明するときは、悪性のできものをひらがなで「がん」と表記しています。これらのうち、耳鼻科の分野で癌以外によくお目にかかるのは、悪性リンパ腫です。
悪性リンパ腫とは、簡単に言うとリンパ節に発生するがんです。リンパ節は体中にありますが、頚部は比較的外から触りやすいため、頚部のしこりとして自覚、発見されて外来に受診されることも多いのです。固形の癌腫と大きく違うのは、治療の主体が化学療法と放射線であり手術はほとんど無効であることです。化学療法は、リンパ腫の細胞の種類によって効果の有無がかなりのところまで判明しており、これを決めるためにはリンパ節の細胞が必要です。 手術は治療ではありませんが、治療の方針を決定するためには手術してリンパ節の細胞を採取しなければなりませんので、head&neckもよく血液内科に依頼をされてリンパ節を摘出します。摘出したリンパ節はその場で血液内科の医師に手渡し、生の標本のままさまざまな検査に提出してゆきます。 我々が協力できるのはここまでで、治療の主体は血液内科にゆだねられていますが、リンパ腫の発生する部位によっては治療中に耳鼻科の処置が必要になることもあります。たとえば鼻の中に発生すると、放射線の効果を高めるために軟膏のついたガーゼをつめたり、治療中の鼻出血を処置したりします。 こういう患者さんとかかわっていて、治療の主導権を自分たちが握っていない分、いろいろと質問されても答えられないもどかしさを感じます。もちろん自分は頭頸部の外科医で、患者さんには信頼できる血液内科の主治医の先生がいるのですから、横槍を入れる気も無いし、実際にリンパ腫の最先端治療の内容とhead&neckの持っている学生並みの知識では雲泥の差ですから、余計な事を言って患者さんを混乱させてもいけません。当たり障りの無い会話に終始することがしばしばあります。 「我々に協力できることはこれくらいのことしかないのですよ」とお話しながら処置をすることが多いのですが、それでも時にその患者さんの病気の第一発見者だったりすると、治って欲しい気持ちが強く出たりします。どんな患者さんでも同じ気持ちで治療しなければいけないし、実際に自分の分野では気持ちをプラトーに保つ努力をしていますが、他科の分野だとやや押さえがきかないこともあります。患者さんに、「見つけてくれてありがとう」なんていわれると、なおさらです。 治療する医師も人間、治療される患者も人間。複雑な気分になるのでした。 ←低迷中。一日一回のぽちを。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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