エビデンスについての考え
head&neckは私立病院勤務なので、土曜日も外来があります。 とはいえ、午前中のみの勤務日で午後フリーだとうれしいものです。(日によっては結局平日と同じ帰宅時間になってしまいますが・・) さて、今日はエビデンスの話です。 一般の方には「エビデンス」って何よ??といった感じで、なかなか馴染みのない言葉だと思いますが、医療の世界ではここ数年常識となってきました。直訳すると「証拠」とか、「根拠」っていう意味です。「エビデンスに基づく医療」(EBM: Evidence Based Medicine)っていうのは、 経験で治療するのではなく、 この治療をしたら、このくらい効くっていうデーターを基に医療を行うということになります。 これだけを読むと、なるほどあたりまえって感じですが、これがなかなか曲者です。 もともとは、薬の効果を判定するために導入された考え方で、主にアメリカから入ってきたものだと記憶していますが、多くの概念がそうであるように、海外から日本に輸入された概念は妙に変質してしまうという欠点もあります。 たとえば、ある病気に対してAという薬とBという薬を投与して、Aは60% Bは80%の効き目があったとする。そうすると、この病気にはBが第一選択薬で、Aはその次ということになります。至極もっともですね。 同じ理論で、ある癌に対して手術という選択肢と抗癌剤+放射線治療を行ったら、手術は30%の5年生存率、抗癌剤+放射線は40%の生存率であったら、まず抗癌剤+放射線をやろうという話になります。 ところが、癌なんかに関しては、一人ひとりの病気の具合だけでなく、年齢や合併症、はたまたその人の性格が微妙に違ったりします。 そういう要素の影響を頑張って排除して、なるべく同じ条件の症例をそろえてエビデンスを出すのですが、こうして出てきたデーターは、実は参考程度に過ぎないのです。だって、同じ病気、同じ性格、同じ体質なんてありえませんから。 おまけに治療をする医者のほうも、手術の技量がまったく同じなんてありえません。したがって、実地ではあくまでエビデンスを含めたいろんな知識を総合的に判断して、その患者さんそれぞれに合った治療を行わざるを得ないのです。データーにとらわれすぎると、しばしばこの判断を誤ります。 エビデンスはこうなんだが・・・と考えつつも、患者さんの性格に合った治療をしなければなりません。 つくづく、実地臨床は研究や論文と違うなあと実感するのでした。