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第二章 竜宮島 竜宮島がnhkのひょっこりひょうたん島のように海に浮かぶ島であれば、青い水平線を目指すこともできたでしょうし、町があったり大統領を置くこともできたでしょう。いかんせん竜宮島は海底に滑っていく島です。それではどこまで行くのと考えたとき、岩礁にぶつかって島は粉々に解体してしまったのです。そこで暮らしていた生きものたちは、そのときできた空気玉のような中にいるのです。その空気玉は重力と圧力の関係で深い海底近くでふらふら浮いているのです。周りは今まで図鑑でしか見たことのないような生きものばかりです。最初は怖気づいていましたが、とくに攻撃してくるでもなく、今ではそれなりに仲良くやっている次第です。 その浮いているところから見ると、海底に火山があり、その中心から強烈なガスが出ているのです。どれくらい強烈かといいますと、人間の衣服や皮膚が一瞬で溶けてしまうということです。もちろん内臓もそうです、残るのは骸骨だけです。ただその骸骨もいわゆるしゃれこうべ色ではなく、ガスに侵されて半透明です。その人間の骨は深海のわずかな光に反射して、これは染色体に関係するのか、女はピンク系の色に男はブルー系の色を基調として透き通って見えるのです。骸骨になっても溶けた脳みそは、その汁がしゃれこうべに染みとなって残るのです。ということで人間としての意識はないのですが、本能のようなものは残っているのです。いま本能のようなものと書きましたが、それは紛れもなく「ヲコ幻想」です。フロイドの「リビドー(Libido)」とも違います。本能に基づく生のエネルギーではありません。骨だけの存在、食べる必要も、出す必要もありません。ただ「ヲコ幻想」で在るということです。 ここでotohime登場となるのですが、もう音姫様は竜宮島で暮らしていたころの面影はありません。体型も顔も、心までも変わってしまったのです。環境がそうさせたのです。笛を吹いて恋しい男を待つような女ではありません。新しい環境で生活するのには、新しい仕事、稼ぎが必要です。いままでの村でのような仕事はありません。残ってる生きものも人間とカメぐらいです。 音姫様はショーパブを開きました。娯楽の少ない深海では珍しがられて大いに受けました。中でも音姫様の笛の音は深海の水によく溶けて、みんなをうっとりさせました。でもやはり飽きというものが来ます。満員だった客席はまばらになり拍手もパラパラという場末の芝居小屋のような状況が続くようになりました。音姫様はこの先どうすればいいか悩んでいました。そんなある日、仲間の一人がcreviceに身を投じてしまいました。ここの生活と先行きの不安からの投身自殺でしょう。まだ優しい心を持っていた音姫様は嘆き悲しみました。やがてはこの身もその運命にあるのではないかと落ち込みました。 やがてそのcreviceから人間の形をした死体が浮きあがってきたのです。骨だけの骸骨です。ここに落ちたものは強烈な酸性のガスによって身を溶かされ骨だけになるとは聞いていたが、ここまで見事な骸骨になるとは思ってもいませんでした。それは透明度のあるブルーをしています。それはまた自分の意志で関節を動かすのです。その色合いの美しさと、動きの面白さに音姫様は目を見開きました。そしてひらめきました。いけるかもと膝を打ちました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.08.25 16:21:42
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