【はやぶさ2が帰ってくる】宇宙岩石入門
宇宙岩石入門 「はやぶさ」は,「工学ミッション」であり,S型小惑星への軟着陸に成功し,微粒子を回収し,地球へ戻ることができました.工学ミッションとしては大成功でした.この成功に基づき,「理学ミッション・はやぶき2」が計画されました.(130ページ)著者・編者牧嶋昭夫=著出版情報朝倉書店出版年月2020年7月発行著者は、岡山大学惑星物質研究所教授の牧嶋昭夫 (まきしま あきお) さん。小惑星探査機「はやぶさ 2」の帰還を前に、復習と最新の知見を求めて購入した。太陽系誕生から、鉱物学と地球化学の基礎、隕石と小惑星、探査機によるサンプルリターン、そして生命の可能性のある惑星・衛星と、構成は教科書的(網羅的)で、執筆時点の最新情報が盛り込まれている。Part 1 では、宇宙の誕生から太陽系惑星の形成を学ぶ。惑星形成の 2 つの謎のうち、メートルサイズの小石から惑星を誕生させる仕組みは、2007 年、シミュレーション計算によって明らかになった。しかし、もう 1 つ――メートルサイズの小石を作るには非弾性的な衝突過程――は、まだ解けていないという。月面へ隕石が集中した後期重爆撃期(LHB)は、地球の進化生命の進化においても重要な役割を果たしたと考えられている。本書の目指すところは、生命の可能性のある惑星・衛星を探すところにある。Part 2 では、鉱物学と地球化学について学ぶ。酸素数の違いによって、カンラン石、輝石、長石に分かれることは高校地学の復習だ。地球化学の父ゴールドシュミットは、金属鉄(核)に入りやすい元素を「親鉄元素」、硫化物に入りやすい元素を「親銅元素」、地殻 (マントル)に入りやすい元素を「親石元素」、気体の元素を「親気元素」と呼んで区別した。Part 3 では、隕石と小惑星について学ぶ。まず隕石の定義だが、宇宙空間に存在した固体物質が地球あるいは惑星表面に落下して大気を通過中の高熱などで蒸発せず残ったものが隕石である。この定義では、火星に落下した岩石は隕石だが、月に落下したものや小惑星上に落下したものは隕石いはならない。月や小惑星は惑星ではないからだ。隕石の命名が、最も大きな破片が落下した地点を受け持つ郵便局の名前がつけられることになっている。発見者名では争いが起こる場合があるからだ。一方、小惑星の命名は、は現在天体で唯一、発見者に命名提案権が与えられでいる。The meteorite market] というサイトでは、隕石を販売している。炭素質コンドライトのアエンデ限石は 1 グラムあたり 2,500 円。タギシュ・レイク限石は、1 グラムあたり 7 万円くらいと非常に高価だ。2006 年の国際天文学連合(IAU)総会での決議により,「小惑星と「彗星」は共に small solar system bodies (SSSB)のカテゴリーに分類された。これを受け、2007 年の日本学術会議で、日本ではどちらも「太陽系小天体」と分類することになった。小惑星と彗星は、「コマ」と尾の有無で区別する。小惑星の分類だが、スペクトルによって「トーレンの分類」「SMASS 分類」という 2種類に分類されるほか、類似した固有軌道要素を持つ小惑星の集団を「族」 (family)と読んで分類されている。Part 4 では、サンプルリターンの歴史と未来を学ぶ。まず、1959 年のソ連の探査機「ルナ」シリーズにはじまる月探査と、月のサンプリリターンを紹介。続いて、探査機スターダストによる彗星の、探査機ジェネシスによる太陽風のサンプルリターン。そして、2003 年に打ち上げられた日本の探査機はやぶさによる、S 型小惑星イトカワの三プリリターン。はやぶさ計画については、プロジェクト・リーダーの川口淳一郎さんが著した『はやぶさ、そうまでして君は』が詳しい。はやぶさは打ち上げと目的への到達を目的とした「工学ミッション」だったが、この技術を応用してサイエンスを推し進める「理学ミッション」として計画されたのが、2014 年に打ち上げられた小惑星探査機はやぶさ 2 だ。はやぶさ 2 の目的は、太陽系と生命誕生の謎に迫ることだ。NASA が 2016 年に打ち上げたオシリス・レックスは、B 型小惑星ベンヌからのサンプルリターンを目指している。今後、火星や衛星からのサンプルリターンも計画されている。とくに、土星の衛星エンケラドゥスには有機化合物と熱源、そして液体の水が存在しているために、地球外生命が存在する有力な候補地と考えられている。牧嶋さんは最後に、「日本は、MMX計画のはやぶさ 3(仮称)により火星の衛星の試料を手にいれることでしょう。はやぶさ 4,5‥‥により,太陽系のいろいろな試料を手に入れるかもしれません。さらに、世界に誇る南極隕石コレクションもあります。このように日本には宇宙物質科学を進めるための土壌がすでに揃っています。読者の方々が、本書をきっかけに,きまざまな知識を増やし、科学的リテラシー(能力)を向上させて、科学に対して温かく、かつ、批判的な目を持てれば最高だと思います」と締めくくる。さあ、未来へ向かって科学の翼を羽ばたかせよう!