【光学式プラネタリウム100周年】プラネタリウムの疑問50
プラネタリウムの疑問50 実は、「日本プラ寝たリウム学会」という学会があり、毎年11月23日の勤労感謝の日に,「全国一斉熟睡プラ寝たリウム」というイベントを全国各地のプラネタリウムで行っています。プラネタリウムで思いっきり寝るチャンスです。(140ページ)著者・編者五藤光学研究所=著出版情報成山堂書店出版年月2023年7月発行あなたはプラネタリウムを見たことがあるだろうか――わが国はアメリカに次いでプラネタリウム投影機の設置台数が多く、日本プラネタリウム協議会(JPA)によると、年間のべ900万人の人がプラネタリウムを見ているという。これは東京ディズニーシーの年間入園者数に近い人数だ。今年(2023年)は、光学式プラネタリウムが誕生してちょうど100年になる。それを記念し、天体望遠鏡メーカーであり、国内外に多くのプラネタリウムを納品している五島工学研究所が編者となり、プラネタリウム製造メーカーの社員や、プラネタリウム施設の運営や投映(解説)を行う解説員が、その誕生から現在までの移り変わり、仕組みや楽しみ方、魅力などを、余すところなく語ってくれる。半球型のドームに星空を投映する光学式プラネタリウムは、1925年にオープンするドイツ博物館が、来館者に天体の運動を学んでもらうために、カールツァイス社が1923年に開発した「ツァイスI型」が最初の製品だ。当初はドイツの星空しか投映できなかったが、緯度を変更できる運動軸を設け、南半球の恒星原板を加え、世界中の星空を投映できる「ツァイスII型」は世界各地に輸出され、1937年に大阪市立科学館にも納品された。光学式プラネタリウムの面白いところは、プトレマイオスの天動説を、最新の科学技術を使って忠実に再現しているところである。日周運動、緯度回転、歳差運動はもちろん、太陽や月、惑星の運動も機械的に(のちにコンピュータが支援動作する形で)再現できる。その後もプラネタリウムは進化していく。初期のプラネタリウムは、実際の夜空で人間の目で見ることができるとされる6.25等星までの6,500個を投映することができた。1990年代後半には7等星までの数万個を投映できるようになったが、1998年に大平貴之さんが開発した「MEGASTAR (メガスター) 」は一気に11等星までの170万個の星を映すことができる。光学式プラネタリウムは、恒星原板と呼ばれる板に小さな穴を開けて、電球やLEDで照らすことでドームに星空を映し出す幻灯機のようなものだ。MEGASTAR 以前は手作業で恒星原板に穴を開けていたが、電子回路の基板を製造するのと同じようにガラスに蒸着した金属をエッチングすることで、直径0.005mmという極めて小さな穴を開けた恒星原板が製造できるようになった。2007年に多摩六都科学館に導入された「CHIRON II (ケイロン II) 」は1億4000万個を超える星々を投映でき、ギネス世界記録に認定された。また、南北2つあった恒星球が技術の進歩で1つになり、惑星棚を別装置にすることで、現在の光学式プラネタリウムはコンパクトな1つの球体となり、見る人の視界を妨げることが無くなった。1981年に登場したデジスターは、ビデオプロジェクターの映像を、魚眼レンズを使ってスクリーン全面に映すもので、コンピュータの画面をそのままスクリーンに映し出すことができた。光学式プラネタリウムでは表現できない、宇宙空間で見た星空をも投映できるようになった。のちにデジタル式プラネタリウムと呼ばれるようになる。ただし、星の美しさでは、デジタル式より光学式に軍配が上がることから、両者の利点をあわせもったハイブリッド式プラネタリウムが導入される施設も増えている。また、2012年に発足した日本プラ寝たリウム学会は、毎年11月23日の勤労感謝の日に、「全国一斉熟睡プラ寝たリウム」というイベントを全国各地のプラネタリウムで行っている。プラネタリウムで眠くなる方は参加してみてはいかがだろうか。私が通っていた中学・高校には五藤光学研究所のプラネタリウム「S-3」(ビーナス)があった。1970年に設置されたもので、投映できる恒星は4,500個。操作法を学んだ生徒が操作することが許されており、南半球への旅はもちろん、毎年の学園祭では冨田勲 (とみた いさお) のシンセサイザーサウンドを流しながら歳差運動軸を使ってギリシア神話の時代に遡ったり、SF映画に登場する未来の星空を案内した。夕陽が沈みドームが徐々に暗くなり、やがて吸い込まれるような満天の星空が目の前に展開する――プラネタリウムの操作をしながら、観客の「おー」という低いうなり声を聴くと、いよいよ私の語りがはじまる。このライブ感と、日の出の後の観客との質疑応答は、天文学の知識だけでなく、私に大きな自信を与えてくれた。渋谷の五島プラネタリウムにもよく足を運んだ。金曜日の最終投映「星と音楽の夕べ」――彼女がいるわけでもないのに、クラシック音楽を聴きながら宇宙へ思いを馳せた。やがて結婚して子どもが産まれ、多摩六都科学館のプラネタリウムを見た。残念ながら、CHIRON II 導入の少し前だったが。プラネタリウムは、見る者も操作する者も、自然科学を学ぶ楽しさを教えてくれる最高の教材である。