カテゴリ:詩
木かげ一つない市場への道を
両うでにくいこむ買物籠さげて 家に養いを運ぶ主婦たちの後について もういくたびゆきかえりしたことだろう。 ガタガタとゆらぐ大きなうば車に 病弱な児を二人のせて 大根やキャベツや魚と同居させて 坂道をあえぎあえぎ押上げた日もあった。 子供が車から一人おり、二人おりする頃には いつしか私の顔のしわもふえて きょう相変わらず二つの籠さげて ひでりの道をてくてく歩いている。 ああ市場の道よ 雨やどりさせてもらった踏切番の小舎よ ひそやかにこおろぎの声していた草むらよ 遠く平和につらなる六甲の山々よ 私のひそかなる思いをみんな聞いてきた道よ。 神谷美恵子著作集月報1所載(みすず書房刊) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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