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テーマ:人間関係(925)
カテゴリ:おはなし(作り話)
今日も荒沢を連れてくる井沢の様子を見ながら
保険室を担当する林先生は、井沢の困惑を見抜いていた。 林は、思春期にいる荒沢の心のゆれの危うさを考えていた。 そして、原因がはっきりとはわからないながらも、こういうものは長期戦になることを知っていた。 そもそも、食べなくなってしまうところから考えてはいてはだめだ、と林は考えている。原因はその前に積み重なっている。問題は、積み重なった問題が何で、何がきっかけでそれが放出したか、だと林は、井沢に伝えたくて仕方がなかったが、相談を受けてもいないのに、そう言うことを口に出すのもためらわれた。 井沢は井沢で、林に荒沢のことを相談してみようかと考えてみたこともある。 でも、倒れた後の荒沢を収容するだけの保健室で働く、ちょっと自分よりも保健や病気の知識があるだけの林「先生」にいったい担任である自分にもわからない何がわかるだろうか、とも思った。井沢には、摂食障害が一種の「気から来る病」であるという意識が希薄だった。しかし、この学校では、それが普通だった。多くの教師たちは、健康な体には健康な精神が宿る、と信じているふしがあった。 荒沢は、また保健室のベッドで目覚めた。 「今学期に入ってから、何度目だろう・・・。 これじゃあ、もう、授業にもついていけないなぁ。 申し訳ないなぁ。」 ぼんやりした頭のことで考えるのは、両親や家族にたいしての申し訳なさだけだ。 でも、荒沢自身にも、食欲がまったくなくなってしまったのに「これ」といった理由が見つけられるわけではない。 起きてくると、林先生がいつもどおり、机で何かをしている。 振り向いた林は、これもいつもどおり、「気分はどうだい?」と聞いてきた。 「この先生は、いつも何も聞かない」と、荒沢は少し不満げに思う。 林は林でタイミングをうまく計ろうとしているのだが、どうもそれがいつだか良くわからない。 自分があまりいろいろと聞かれるのを嫌がるタイプだし、向こうは「多感な年頃の」女の子なものだから、ついいろいろと聞くのをためらってしまう。 でも、荒沢は、「今日の気分」以外の、もっと実のあることを聞かれるのを待っている。自分の中のこんがらがった糸をほぐしてくれる相手を探している。でも、何ヶ月も通っている保健室の林は、その役目を果たしてくれそうにもなかった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー これは、フィクションです。 よろしかったら、ぷちっと応援よろしく。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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