思い出
30代半ばの頃だった。
カツが「山に登ろう!」と電話してきた。
僕は答えた。
「山登り?俺、山登り好かんもん…」
「絶対気持ちよかけん…登ろうや!」
「どこの山や?」
「久住」
「久住!あそこ1度登ったばってん
めちゃきつかったけんもういや!」
「いいけん、頼む。俺たちの思い出ば残すったい」
大分のカツに口説かれた僕は
マサオとイツくんの二人を誘った。
二人は伊万里に住んでいる。
カツは大分市に住んでいて、
休日山登りを楽しんでいたらしく、
久住一帯の山々にも詳しくなっていた。
僕はといえば、
とにかく昔から山登りが嫌いなのだ。
理由?きついから!
過去、韓国岳と久住山に登った。
あとは近くの立花山、三日月山、
若杉山に登ったことがあるだけ。
いつなのか忘れてしまったある日、
4人の男は久住に登った。
長者原に車をとめて歩いた。
僕は「車で登ろうぜ」と言ったが、
誰も相手にしてくれなかった。
久住山には思い出があって、
かつて大好きなビンちゃんと
手をつないで登った思い出の場所なのだ。
(このラブストーリーは後日書く)
久住のてっぺんで
カツがコーヒーをいれてくれた。
即席ラーメンも食べた。
カツは山頂でのコーヒーとラーメン
この旨さと爽快な気分を
僕らに伝えたかったらしい。
で、その夜は法華院温泉に泊まり、
山の温泉で疲れをとった?
のだろうがその夜、何を食べたのか、
どんな布団で寝たのか記憶がない。
さて翌日、下山した4人は最後は
湯布院の500円温泉で体の疲れをとって
別れようと僕が車中で眠っている間に
話が決まっていたのだ。
「おいおいコックン、着いたばい」
「ここ、どこや?」
「温泉にはいるばい」
「温泉?また、温泉にはいると?俺、このまま寝ときたか~」
でも、イツくんにタオルを渡されて
しぶしぶとみんなについて、
寝ぼけ頭でどこともわからぬ
温泉に入っていった。
まさか、
その温泉でくりひろげられる
夢のような一生一度の光景を
誰がその時想像できただろうか!
脱衣所で服を脱ぎ始めた僕たちに
小柄なオジサンが小声で話しかけてきた。
「今日の500円は安かよ…」
俺らは????で服を脱ぎながら
温泉の様子を見た。
ちなみに4人とも眼鏡男なのだ。
温泉はでかい岩などがあり
その上に人が気持ちよさそうに
寝転んでいたり、
ニコニコ微笑みながら
くつろいだ雰囲気が漂っていたのだ。
で、
その岩の上に座った人が
外国人の美青年なのだ!
と目線を下におろして僕は驚いた!
大きな丸く美しい乳房が
プルンプルン微笑んでいるのだ。
寝ぼけた頭が一瞬にして
スケベ頭にスイッチが入った。
寝ぼけていなかったカツも
マサオもイツくんも
すでに気づいていたらしく、
もじもじニヤニヤしているのである。
まだ半分寝ぼけていた僕が言った。
「おい!外人の女がおるぞ!」
カツが人差し指を口の前に置いて「シー!」と合図した。
僕はカツに言った。
「カツ!メガネどうする?」
「つけてはいる!」
カツは迷いなく答えた。
マサオとイツくんは
メガネをはずしていた。
僕はいっしゅん迷ったが、
メガネをかけて入浴することにした。
僕は素っ裸になって
大事なところをタオルで隠して
さも、なんでもないように
岩場の方へ近づいていった。
洗い場には男性と子どもが
髪をあらっていた。
男性と子供たちに岩の上から
声をかけているすっぽんぽん美女たち
その言葉はフランス語だった。
胸も恥部も隠すことなく
おおらかにさらけだしたまま
これがフランス人なのか!と感心した。
僕はその温泉でカツ、マサオ、イツくん
がどこにいて何をしていたか
まるで記憶がない。
記憶にあるのはその岩場の上の
美しい女性の体と、
もう一人の女性の活発な
美しい動きだけだった。
すべてオープンのその開放された
女性の姿に感動と官能とが
入り乱れた状態だった。
いったい、
僕らはどのくらいの時間、
その温泉にはいっていたのか
記憶にない。
普段は見れない美しい絵のような
フランス美人の裸体を
メガネの曇りを水で洗い洗い
眺めているだけだった。
野郎4人は、
温泉から出て喫茶店にはいり
アイスクリームを食べながら
放心状態だった。
みんな無言だった。
久住に登ったことも、
久住のてっぺんで食べた
美味しいラーメンのことも、
法華院温泉での一夜のことも
忘れ去り、
ただただフランス女性の裸体だけが
頭に残り悶々とした気分だった。
もうあんな素晴らしい温泉には
二度とおめにかかれないことだろう。
追記。
1枚の写真も残っていない。
インスタントカメラを持っていき
36枚撮ったのだが
僕がどこかで落としたからだ。
3人には恨まれたがすぐ忘れる3人!
https://youtu.be/h0ffIJ7ZO4U