Closing time
北村さんは、エイズのホームレス、久保、という役らしい。これ、北村さんが出演していることを知った時から、とあるアルバムとタイトルが同じだなと思ってた。いざ現物を見始めると冒頭で、たまたま同じなのではなく、そのアーティストに捧げられていることが、明らかに。しかもチャプター毎についている4つのサブ・タイトルが、そのアルバムに入っている曲名そのままなのであった。あのう、私ね、トム・ウェイツ、大好きで。Closing time は氏のデビュー・アルバムだ、まだ声もまだそれほどダミっていないせいもあってか、心底チャーミングな歌唱で、ロマンティックな程。アートより歌手っぽさが勝る、というか、んー、うまく言えないな、楽曲含めて最高の「歌うたい」がそこに、というか、とにかくあれはすこぶる「歌」なんだわ、て、なにがなんだか(笑)個人的な思い入れがあると普通に見るのは無理だ言うこともあろうが、その分差し引いたとしても、この映画にゃがっかりだ。捧げるという言葉が、冒涜にすら感じられるほどに。酔いどれ詩人気取りもいいかげんにしろよ、と全編、思う。私は「女理髪師の恋」を新品のDVDで買っちまったんだぞ、そのオトシマエもつけず、どうしてくれるっっってのもある。この監督さん、部分的にとてもかっこいいと思うので、余計辛い。ブートレクのパッケージのモノクロ写真とかいいし。理髪師のヒップもよく撮れてて、そそる。でもさぁ。だからこそ本編観ると、がっかりしちゃうのかもな。使っている音楽も悪くないと思う分、雰囲気だけ?つう。ものすごく映画が好きなのはわかったよ、いいんだけども、それこそ新宿のスタンディング・バーとかで夜中に客同士、薀蓄たれまくって満足してればいいのに。ネタバレますけど、女理髪師とラストが同じだしな。2回あると、意味深通り越して、単純に成り行きに行き詰っての所業としか思えなくもなりましょうよ。友人の奥さんに恋するってのも、ブートレクとかぶってるし。兄弟間だが男同士つうことなら女理髪師も同じか。北村さんの役が「ルナティック」にしろこれにしろ、どうも母親によって不具にされているらしいのも、嫌な符牒だ。日本文学には「私小説」とジャンル分けされるものがある。好きな作品もあるんだけれど、それにより汚染された土壌から立ち上がってくる噴飯たる悪夢を、見事に映像化しているような気がした。保険証が生きてて、帰る家を保持しているホームレス仮面。似非無頼派は、とっとと消えてくれ。トム・ウェイツもファンのブコウスキーは、郵便局で手紙の仕分けしながら書いてたんだぞう。かっこつけて新聞社のコラムを断ったりしないぞ。つか本当は、怖かっただけなんじゃないの?北村さんは、健闘してた。主人公をいい人にするのに使われてる可哀想なキャラだが、フリークス系の気持ち悪さが匂ひ立つ。どうなんだろうな、彼が主人公に付きまとっていた理由が単純に恋だったとしても、主人公に帰る部屋があると知ったとき、裏切られたと思わなかったか。数少ない持ち物の中で生命線とも言える寝袋を譲った自分の行為を、どう解釈したんだろう?「Lonely」というチャプターだった。Lonely, lonely eyes, lonely face, lonely lonely in your place.それでも彼は最期に、I still love you と歌ったのかもしれない、トム・ウェイツのように、さ。