巡礼本とフランスからの手紙
新刊のサンチャゴ巡礼記があると人から教えられ、さっそく買ってきた。小田島彩子 『気づきの旅 スペイン巡礼の旅』(柏艪舎)という本だ。2002年以降、サンチャゴ巡礼に関する本がけっこうたくさん出ている。これから出発するのではないため、ガイドブック的な要素が多い本にはあまり興味を引かれない。関心があるのはもっぱら著者の「内面」だ。なぜ巡礼に出たのか。歩くなかでどんなことを思い、なにを感じたのか。巡礼することで変わったことはあるのか。この本はそういう面にも多く触れている。著者の体験や感じたことはわたしのそれと重なる部分が少なくない。熱いシャワーが浴びれるだけでありがたかったこと。生きていくのに必要なものはそんなに多くないことがわかったこと。出会う人びとのささやかな親切が身にしみること…など。数は少ないが巡礼路沿いの風景がカラー写真で紹介されている。著者が歩いたのは4月から5月にかけて。わたしが見た夏・晩夏~秋の風景とは色が違う。春は緑が濃く、咲き乱れる花が美しい。とても素敵な本だ。これから歩く人にも、すでに歩いた人にもおすすめしたい。前後してフランスから便りが届いた。だれからだろうと思ったら、巡礼2年目に出会ったフランス人夫妻からだった。帰ってきてから送った写真に対する、5年ぶりの返信だ!夫妻はアフリカのチャドから2人の幼児を養子として迎えたらしい。「だから数年は巡礼できないのよ!」と書いてある。住まいが南仏アルルからの巡礼ルート上にあるので、「あなたがこの道を歩くときは会うことができますね!」手にした一冊の本と一通の手紙に、いつかまたこの道を歩くのだという思いを新たにする。