ある企画の考えがまとまらず、途方にくれる。気持を切り替えようと動画をたてつづけに2本見た。これがたいへん面白かった。
一つは、元宇宙飛行士クリス・ハドフィールド(Chris Hadfield)氏が、宇宙を題材にした映画を見ながら科学的な批評をする。
宇宙物理学とご自分の宇宙滞在体験を基にして、映画で描かれていることが正しいのか、それとも噴飯ものなのかを具体的に指摘している。フィクションといえど、科学的に正しくなければ成立しない世界があるということだ。しかしながら、ハドフィールド氏の映画評が優れているのは、作品を貶しているのではない。地球とはまったく異なる宇宙物理学を丁寧に説明し、また、一人の宇宙飛行士が十数年間訓練を受けて、それが人間的にどのような成長をもたらし、なぜその結果が宇宙で必要であるかを教えている。
ハドフィールド氏が科学的に正しく、優れていると指摘した映画は、『2001年 宇宙の旅(2001 A Space Odyssey)』と『アポロ13号(Applo 13)』。
『2001年 宇宙の旅』は、1968年公開当時に人間を乗せた宇宙船で起こることを的確に予見してイメージ化していること。また、映画『アポロ13』における飛行士とNASAとの緊急通信の語法(話方)は、後にNASAにおいてそれを採用して実際に使用するようになったという。
クリス・ハドフィールド氏が最後に語る言葉は本当にすばらしい。「人間は理解し、解釈する。だから人間はすばらしい」と。「解釈」は「応用」へ導く論理の主体的未来性を示唆する概念である。これは人間だけに備わった能力である。
元宇宙飛行士が観る宇宙映画
二つめは、ユタ大学およびユタ自然史博物館の古生物学者マーク・ローウェン(Mark Loewen)氏が観る恐竜映画について。『ジュラシック・パーク』や子供向けアニーメーションなど、たくさんの恐竜映画がある。現代によみがえった恐竜、あるいは現代まで秘境に生きつづけた恐竜、あるいはまた恐竜と人類が共存していたとする1億年近い時代の物語。もちろん全作品がフィクションであるが、そこに登場するいろいろな種類の恐竜について(恐竜デザイン)について、現代最先端の化石学・古生物学の見地から批評する。恐竜の視覚について、牙・歯について、筋力について、体表について、体表の色彩について、テリトリーについて・・・等々。
現在『恐竜博2023』が開催されている。東京展は間もなく終了する(上野・国立科学博物館 6月18日まで)。このあと大坂展が始まる(大坂市立自然史博物館 7月7日〜9月24日)。恐竜博士の映画評を参考にして博物館に足をはこぶのも面白いかもしれない。
恐竜博士と観る恐竜映画