観たい観たいと長年思っていたジャン・ルノワール監督の映画『黄金の馬車』 (The Golden Coach) をYouTubeが掲載していた。日本語の字幕が付いている。
舞台は18世紀の南米スペイン植民地。総督が公用車という名目で購入した豪華な黄金の馬車を運んできた船で、イタリアの仮面劇(コメディア・デラルテ)の一座が新天地で一旗揚げようとやってきた。そして一座の花形カミーラ(アンナ・マニャーニ)をめぐる騎士と闘牛士と総統との恋の鞘当ての始まり。原作はプロスペル・メリメの一幕戯曲。映画は1952年の作品。1993年に日本初公開。
監督ジャン・ルノワール(1894-1979))は、画家ピエール=オーギュスト・ルノワールの次男。またこの『黄金の馬車』を撮影したクロード・ルノワール(1914-1993)は三男。
深刻なものは何一つ無い、と言いたいところだが、原作がメリメであるし、監督は『大いなる幻影』『南部の人』のジャン・ルノワールである。表面に出てこないがセリフのちょっとした端々に、植民地支配階級と原住民とのはなはだしい格差が語られる。遊興階級である貴族の税優遇や、庶民に対する侮蔑となってあらわれる教育格差。あるいは黄金の馬車に象徴される権力。あるいはまた公金の私的流用等々。まるで日本の国会議員のようだ。・・・こうした問題は、映像によって深刻化されてはいない。が、映画全体を通して語られているのである。
この映画の構成を私はおもしろく思った。
映画は劇場の舞台で始まる。幕が開くと正面に大階段を据えた舞台装置。それは総督官邸の大階段である。黄金の馬車が運ばれて来たというので、みなが一斉に階段を駆け上がり一室に突入して行く。・・・そのあとをカメラが追い、一室に入ると、ここから舞台装置ではない現実の官邸内部になっている。まったく自然な流れで切り替わる。この後に総督官邸で繰り広げられる事件が、すでにして仮面劇一座の出し物である喜劇悲劇という枠組みである。すばらしい導入部だ。
映画は実は二部構成と言ってもよいだろう。第一部と第二部とのあいだにインターバルがあるのではない。仮面劇一座の老座長が舞台幕前で観客に向かって「二幕の始まり」と口上を述べるのである。物語はここから少しばかり色合いがちがってくる。一座のヒロイン、カミーラをめぐる恋の鞘当てが深刻さを帯びてくるのである。・・・そして、大団円へ。詳しくは述べないでおくが、再び映画冒頭と同じ大階段の舞台装置。ひとりカミーラが降りてくる。彼女は自分の宿命に気づく。女優は、舞台を離れられないことに・・・。
ジャン・ルノワール監督『黄金の馬車』