〈蝶が大西洋横断に成功、4200キロを休みなく飛行 新研究〉という見出しで、CNNが興味深い記事を掲載している。
CNN〈蝶が大西洋横断に成功〉
この研究で確認された蝶はヒメアカタテハであるが、蝶の渡については早くから知られてい、オオカバマダラ (
Danaus plexippus LINNE 1758) が、北米大陸から大西洋を渡ってヨーロッパに移住することは有名である。私が小学3年から使っていた横山光夫著『原色日本蝶類図鑑』(昭和29年・1954年、保育社刊)にはすでにその記述がある。オオカバマダラは北米から南米に渡って越冬する。熱帯の温気につつまれた森の中の樹木に、まるで鬱蒼とした葉叢のようにオオカバマダラがぶらさがっている。ちなみに横山光夫著『原色日本蝶類図鑑』は名著である。
さて、ついでなので蝶についてあれこれを並べてみる。
【蝶が出てくる小説・戯曲】
◉ 森村誠一 『死媒蝶』
(講談社文庫)
◉日影丈吉 『蝶のやどり』
(「幻想博物誌」所収、講談社)
◉香山 滋 『妖蝶記』
(角川文庫「月下の殺人鬼」所収)
◉日下圭介 『蝶たちは今・・・』
(講談社文庫)
◉鮎川哲也 『蝶を盗んだ女』
(角川文庫)
◉新羽精之 『幻の蝶』
(「推理ストーリー」昭和41年7月)
◉多岐川恭 『蝶』
(「おとなしい妻」所収、新潮社)
◉大下宇陀児『昆虫男爵』
(「大下宇陀児傑作選集 4」春秋社)◉横溝正史 『仮面舞踏会』(角川文庫)
◉泡坂妻夫 『迷蝶の島』(文藝春秋)
◉寺山修司 戯曲『毛皮のマリー』
◉ジョン・ファウルズ 『コレクター』(白水社)
◉イエーツ 能『影の女』
【蝶が描かれている絵】
◉ボッシュ 『快楽の園』
◉M.C.エッシャー 『バタフライズ』木版 1950年
◉ルドルフ・ハウズナー『愛の樹』1979、『蝶の樹』1978、
『二つの大陸』1962,『すばらしい場所』1978-79
◉マックス・エルンスト『人の手と石化した蝶』1931、
『一匹の白い蝶を追いかける33人の少女たち』1958
◉ダリ『花の変容』1974
◉蘆雪『楚蓮香図』
◉亀倉雄策『ヒロシマ・アピールズ 1983』 ポスター
◉映画『羊たちの沈黙』ポスター(ただし蝶ではなく蛾)
◉能衣装『白地蝶模様縫箔能衣装』前田育徳会所蔵
◉景徳鎮窯『粉彩菊蝶図盤』雍正銘、静嘉堂文庫蔵
◉オランダ17世紀の多くの静物画に蝶が描かれている。
【歌】
◉童謡『ちょうちょう』野村秋足作詞、スペイン民謡
◉童謡『緑のそよ風』草川信作詞、清水かつら作曲
◉『野崎小唄』今中楓渓作詞、大村能章作曲、
東海林太郎歌唱
◉『花と蝶』川内康範作詞、彩木雅夫作曲、森岡賢一郎編曲
森進一歌唱
◉『白い蝶のサンバ』阿久悠作詞、井上かつお作曲、
森山加代子歌唱
蝶の歌は意外に少ないかもしれない。私がいま思い出すのは以上の5曲。初め2曲だけ思い出したが、書いているうちに少しずつ増えた。
アンソロジーのしめくくりに安西冬衛氏のみごとな一行詩『春』。忘れられない影像を読み手に植えつけてしまう。季節の移りとともに一匹の蝶が日本から韃靼海峡(間宮海峡)を樺太へと渡って行く。「渡って行った」という言葉の視点は、樺太側からのものではないだろう。「てふてふ」という表現により、蝶の姿とその飛翔の様が「音」としてそこに在る。「てふてふ」という儚いような音声と、「韃靼」という強い響が対比される。蝶の命の旅・・・それをあらためて何と言うか、読み手の人生経験にゆだねられる。詩人の言葉の鋭さを思い知る。
安西氏、引用させてください。
てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った
下の画像は昭和40年頃に新宿・小田急百貨店で開催された
「日本の蝶展」(主催・国立科学博物館、朝日新聞社)の
「林コレクション」解説パンフレット。
林慶(大正3ー昭和37)氏は昭和20年に東京から疎開先の
石川県能登町で蝶の飼育を始められた。病を得て亡くなるま
で日本産蝶類の研究に専念された。上述の展覧会は没後間も
無く開催された。
横山光夫著『原色日本蝶類図鑑』 昭和29年 保育社刊
私、山田の本棚より。函はご覧のとおり70年経過してボロボロ。中の本体はほとんど痛んでない。