去る9月16日に亡くなられた写真家細江英公氏(享年91)を追悼して、同じく写真家森山大道氏が、きょう10月1日の朝日新聞朝刊紙上で語っていられた。森山氏は20代だったころ3年間ほど細江氏の助手をしていられたそうだ。私は森山大道氏の追悼を好感をもって読んだ。
そして私は40年以上昔の或る一日を思い出した。細江英公氏の撮影現場を実際に拝見したことを。
写真短期大学構内で田中泯氏が踊られ、その姿を同大学の教授だった細江氏が撮影した。授業の一環に田中氏のプロジェクトが組み込まれた企画だったかもしれない。私は田中氏のスタッフにくっついて行ったのだが、大勢の学生が細江氏の撮影を見学していた。森山大道氏は独立して長い年月が過ぎてい、鋭い視線で社会の隅々をスナップする写真で盛名を馳せていられたので、このときの細江英公氏の撮影現場で助手をしていたのは他の人だった。たしか2,3人の助手がいたように思い出す。次々にシャッターを切る細江氏に数台のカメラを指示にしたがって素早く手渡していた。
細江氏は踊る田中泯氏をファインダー越しに目を話さず、「いいな。いいなァ!」とか「すごい、すごい」などと、しきりに声をかけながら・・・それは田中泯氏に言っているのか、ご自身を駆り立てているのか、私には判らなかったが・・・ほとんど一瞬も止まることなく連写された。私はその様子に半ばびっくりしながら、息を詰めるように見ていた。プロフェッショナル写真家の動体被写体の撮影現場を私はこのとき初めて見たのだった。
いま、気がついたが、私はこのときの田中泯氏の踊りを撮影した細江英公氏の写真作品を見ていない。
あの日の撮影現場を拝見した思い出とともに、細江英公氏を追悼します。