蛙は気温が14.5℃ほどに安定していると必ずしも冬眠をしないらしい。
じつは夕方、もう薄暗くなっていたが、ちょっと庭の落ち葉を掃いた。掃き終わって家に入ろうとして、玄関先の配達用品を置くためにしつらえた台を見ると、何やら黒っぽい塊がある。掃きそこなった枯れ落ち葉かと思いながら暗がりに目を近づけた。ヒキガエルだった、手のひらほどの大きさである。「ああ、蛙クンか」と私は声をかけた。
このヒキガエル・・・いや、同じかどうかは判らないが、2.3年前から小庭の隅、どこか物置の床下にでも住み着いているようだ。玄関の扉を半開きにしていたので、灯火をもとめて這い出して来たのかもしれない。
蛙は「帰る」に通じると、昔、亡母が言ったことがある。亡母よりずっと先に亡くなった姉の家へ訪問旅行をし、その帰りに陶製の蛙の小さな置物をいくつかもらって来た。現在でも我が家の居間の飾り棚のガラス扉の陰に鎮座している。どうやら伯母が「蛙は帰るに通じる」と、妹である亡母に言って、その置物をもたせたらしい。
「蛙の恩返し」という昔話があるかどうか・・・。私が小学生の頃、八総鉱山の家で、両側に物置棚がしつらえた家族の通用裏口に、大きなガマガエルが入って来たことがあった。頭から尻まで15cmほどもある大きなカエルだった。私は家の中にいた母に「ガマガエルが来ているよ!」と言った。母は、「しばらく観察してから、外に出してあげなさい」と応えた。そして翌日、通用口の先の草むらから再びその大きなガマガエルが現れた。「また来たの?」私はしばらく見ていた。蛙は喉を震わせていたが、ゆっくり向きを変えて、草むらに帰って行った。私は母に、「きのうの蛙がお礼に来たみたいだよ」と報告した。「良かったわね」と母は言った。
玄関先に訪問したヒキガエルに、そんなことを思い出した。