絶滅危惧種の車 in メキシコ
メキシコの首都メキシコシティを走っているタクシーは全部で5種類あります。「シティオ(Sitio)」と呼ばれる無線タクシーと、「リブレ(Libre)」と呼ばれる流しのタクシーが一般的。それ以外に、無認可の「白タク」。そして「空港専用タクシー」と「ホテル専属タクシー」です。 「リブレ」は、金色とえんじ色のツートーンカラーでどこでも見かけますが、流しのタクシーはぼったくりとか、タクシー強盗などのトラブルもあるらしい。なのでイチバン安心なのが「シティオ」。街中に点在するシティオ専用の停留所に停まっています。このシティオでも「緑色」の車は乗車料金が割高らしい。環境保護を考えて、無鉛ガソリンで走るためです。なにしろメキシコシティは4,000m を超える山々に囲まれた盆地で、車の排気ガスがひどいので有名ですからね。世界最悪の大気汚染都市に認定されたこともあります。そんなメキシコシティのタクシーは? と云うと...えっ!これは1900年代の画像?だって車がフォルクスワーゲンの「ビートル(Beetle)」でんがな。ビートルなんて2000年ごろで生産中止になった車です。生産国ドイツでは、ヴォルフスブルクにある「フォルクスワーゲン博物館」にでも行かなければお目にかかれない代物。ところがメキシコでは「ヴォチョ」という愛称で、今なを坂道の多いバジェ・デ・ブラボやクエルナバカなど町中を元気に上り下りするビートルを目にします。ビートルと云うと空冷エンジンで有名でしたね。開発当時は不凍液の技術がまだ未熟だったので、冬に屋外に放置しても故障しないよう、空冷式を採用していたのです。日本では、昔のお医者さんがよく乗ってた。これは「冬に急な往診があっても、暖機運転が必須だった当時の水冷エンジン車と違い、速やかにスタートできる」ため「ドクターズカー」として愛用されてたのだとか。このビートルの正式車名は「フォルクスワーゲン・タイプ1」。開発したのは高級スポーツカーやSUVで有名なポルシェですね。生産開始が1938年(昭和13年)、ヒトラーの鶴の一声で開発されたのは有名な話。以来、2003年まで半世紀以上も生産が続き、累計生産台数は2,152万9,464台と云う驚異的な記録を打ち立てた伝説的大衆車です。ビートルの最終車両が完成したのは、奇しくも20003年の7月30日、メキシコ工場でした。そのビートルがメキシコでは現役で親しまれて走ってるのですね。メキシコでは、年間を通してビートル・フェスティバルやレース、その他ファンが集まるイベントが開かれてます。そんなで、メキシコシティーのビートル・タクシーがいたる所を走っているので、メキシコ映画やドラマには付き物になったのです。ビートはメキシコだけでなく、中南米諸国では今でも人気で、ブラジルでは「フスカ」、エクアドルでは「ピチリロ」、コロンビアでは「プルガ」、ペルーでは「サピート」の愛称で親しまれてます。では、何故ビートルがメキシコを始め中南米諸国で人気なのか?それは頑丈では故障が少ない上に、空冷エンジンなので冷却水が一切いらないこと。構造も芝刈り機を少し複雑にしたくらいの程度なので、素人でも修理するのに専門的な知識もいらない。なので、修理工場のある町から離れた土地に住んでても、とても扱いやすくって信頼できる車なんですね。ビートルが初めてメキシコへやってきたのは、1954年のことですが、あっという間に人気に火が付き、1964年には、プエブラにドイツ国外で最大のフォルクスワーゲン製造工場が建設されました。1973年には、メキシコで販売された自家用車のうち1/3をビートルが占めてたほどです。やがて安全基準が厳しくなり、しだいに日本車に市場シェアを奪われていきました。それでも町ではまだタクシーとして使われてますし、農場では農耕馬のように働いてます。路上を走るビートルは、まるでタイムカプセルのようです。