第10話 ~ sae(3) 家 ~
◆前回までの小説のあらすじ◆は、今回の記事の下のコメント欄をご覧ください★ ○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○ 鈍い頭痛を感じながら、私はソファで目が覚めた。吾朗ちゃんの家のリビング。カーテンが閉められたままで薄暗かったが、壁に掛けられた時計はもう昼近くになっていた。「落ち着くまで、うちで少し休んで」 昨夜はあの後、吾朗ちゃんがそう言って部屋に入れてくれた。家に帰る気力も、ここに泊めて欲しいと言い張る気力も、私にはもうなかった。ただ言われるままに部屋にあがり、言われるままにソファに座ったら体がこてんと倒れてしまい、後は涙がいくつもいくつもこぼれ落ちるばかりだった。 全部夢だったらいいのに。起き上がろうとした時、枕代わりになっていたクッションの下でかしゃっと音がした。クッションの下に手を入れると、指先に壊れた銀の感触。やっぱり夢じゃないんだね。 ちぎれた鎖をぎゅっと握って、壊れたロケットを引きずり出した。病院で母が亡くなった日、母の荷物を片付けていた時に見つけたものだった。 お母さん、ごめんね。ロケット、壊れちゃった。お母さんに返すその日まで、私が大切に預かっておこうと思ってたのに。でもむしろ、壊れて粉々になるべきだったのかな? あの日と同じように、私はロケットを胸に握りしめて泣いた。「紗英、昨夜はごめん」 私が起きたのに気がついたのか、吾朗ちゃんがすまなそうに寝室から出てきた。 何を言ってもどうにもならないことはわかっていた。吾朗ちゃんだけが悪い訳じゃないこともわかっていた。でも私はどうしたら自分を抑えられるのかわからなくなっていた。「返してよ。これ、返して!」 そう言った途端、余計に涙が溢れて来て声が震えた。「お母さんがずっと大事にしてきたものなのに、お母さんの形見なのに」「お母さん、亡くなったの?」 吾朗ちゃんの顔色が変わった。私はもう声を出すこともできずに、ただ頷いた。「ごめん・・・」 吾朗ちゃんが片手で顔を覆った。「返してよ・・・」 再び出たその言葉は涙と同じで私の中から自然に溢れてきて、こぼれるように唇から漏れた。「弁償できるものじゃないし、僕はどうしたらいい?どうすれば紗英の気が済む?」 吾朗ちゃんは本当にすまなそうにそう言った。「・・・私も今日からここで暮らす!」「は?」「私もここに住むって言ってるの!」 睨みつけるような視線で、私は声を張り上げた。それをきっかけに、これまでもやもやと思考のまわりにまとわりついて振り落とせなかった感情が、一気に爆発した。「ちょっと待て、何だよそれ」「昨日も言ったでしょ、誰もいない、暗い家に一人でいるのが怖いって。だから今日からここに住むの!」「何言ってるんだよ!お前、自分が何言ってるのかわかってるのか?他人の男と女が一緒に暮らすって、そういうわけにはいかないだろう?僕には恋人だっているんだし」「わかってるわよ、そんな事。昨日、その恋人にも偶然会ったんだし。彼女には一応いとこだって言ってある訳だし、問題ないでしょ?」「問題、大ありだろ」「どうして?吾朗ちゃん、まだ私に未練とかあるの?ないでしょ?お互いまだ気持ちが残っているなら問題があるかもしれないけど、二人ともその気がないんだから構わないじゃない。くるみさんとの仲を邪魔する気は全くないから、その点は安心して。ずっととは言わないわ。そうね、三ヶ月、ううん、二ヶ月でいいわ。二ヶ月間ここで一緒に生活させて」 堰を切ったように喋り出した私に、吾朗ちゃんはあっけにとられて固まってしまった。それでももう私は止まらなかった。「もちろん家賃は半分出すし、家事は任せて。くるみさんも吾朗ちゃんの世話をしに来るんだろうけど、毎日ってわけじゃないでしょ?くるみさんができない分を私がやるから。吾朗ちゃんにとっても損な話じゃないでしょう?それともこの壊れたロケット、ちゃんと元通りに直してくれるとでも言うの?」 吾朗ちゃんはただ私を見つめているだけだった。何か言いたげというよりは、開いた口が塞がらないといった顔で。(つづく) ○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○ 読んでくださって、ありがとうございます! ぽちっと二つのバナーを、応援クリックしてくださるとかなり幸せです。 ←こちらもクリックしていただけると、さらに嬉しいです。(=^-^=)♪ 開かれたリンク先のページに、この小説を評価する投票フォームがあるので、 お時間のある方は、参加してみてください。ご協力お願いします! コメント欄の ◆作者より ご挨拶◆ も、ご覧くださいね。(*^^)v