|
テーマ:洋楽(3357)
カテゴリ:70年代洋楽
'45年生まれのワイアットは、イギリスのプログレ/サイケ・ポップ・バンド、ソフト・マシーンのドラマーでありヴォーカリストだった。 ソフト・マシーンの1stから4thアルバムまで参加したワイアットだったが、音楽性の違いを理由に'70年にグループを脱退(本人いわくクビだったとか)。 その翌年に、元キャラヴァンのデヴィッド・シンクレアやフィル・ミラーと組んで新しく結成したのがマッチング・モウルだった。 1stアルバム『Matching Mole』の発表は'72年。 バンド名は、ソフト・マシーン(Soft Machine)のフランス語読みであるマチンヌ・モル(Machine Molle)をもじったものだとか。 不思議な感触をもつポップ・ソングと緊張感のあるジャズ・ロックが同居した音楽性は、ある意味ソフト・マシーンの音楽をワイアット流に受け継いだものと言える。 そしてそれは、プログレというかどうかはともかく、カンタベリー・サウンドと呼ぶにふさわしい個性を持っていた。 アルバムの冒頭を飾る「O Calorine」は、ワイアットとデヴィッド・シンクレアの共作による哀しくて美しい一曲。 のちの名唱「Sea Song」や「Shipbuilding」(※)にも通じる珠玉のバラード・ナンバーだ。 曲は、ワイアットの弾くメロトロンからはじまる。 淋しげで、どこかほのぼのとした音色。 それを包みこむデヴィッド・シンクレアの優しいピアノがたまらない。 メロディはやや暗めだが、ポップで耳にスッと入ってくる分かりやすさだ。 後ろで淡々とリズムを刻む打楽器の音も、なんともいえない。 ワイアットはこの時28歳。 彼の歌声はくぐもっており、すでに何かを達観しているかのような老成感がある。 同時に、そこにはセンシティヴで少年の心を残したような純朴さも感じられる。 「I Love You Still...Caroline」というストレートな一節も胸を打つ、ワイアット印の名唱だ。 この後、もう一枚アルバムを残してマッチング・モウルは一旦解散する。 新しいバンドの結成に向けて意欲的にリハーサルをこなしていたワイアットだったが、神は彼に残酷な仕打ちをする。 その直後('73年7月)に起こった転落事故により、ワイアットはなんと下半身不随になってしまうのだ。 ドラマーとしての生命を絶たれたどころか、歩くことすらもできなくなった彼は、絶望の淵に立たされながらも曲を書き続けた。 そして'75年、友人達のあたたかいバック・アップを受けて、ワイアットは車椅子に座ったまま音楽シーンへの復帰を果たし、現在に至る。 そんな彼の壮絶なミュージシャン人生を思うと、「O Caroline」の歌声がよけい胸に突き刺さる マッチング・モウルのほか、ワイアットのソロ・アルバムは『Rock Bottom』、『Nothing Can Stop Us』、『Shleep』など名盤多数。 モンキーズの曲をカバーした「I'm A Believer」での、はかなげな歌唱も忘れられない。 運命にもめげず、今も歌い続ける孤高の音楽家ワイアット。 つーコトで、「O Caroline」を聴いて彼の世界に触れてみよう。 ここをクリック。 車椅子の戦士の歌声に泣け! ※ エルヴィス・コステロの作品 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[70年代洋楽] カテゴリの最新記事
|