奈良の大きな空の下で、そして大仏様の前でライブをさせていただく今日と
いう幸せな時間へと繋いで下さった皆様。ステージを見に来て下さった人達、
スタッフの方々、何より東大寺の関係者の皆様に深く感謝しています。
自分が奈良に生まれた時から今までの事、いろんな事を思い出してステージに
立たせていただきました。せっかくの機会ですのでぜひ皆さんと、大仏様に
向かって合掌したいと思います。
祈る事は、昔の人が伝え続けてくれた、平和で愛を繋ぐ素晴らしい行動です。
今、愛する人は幸せか、自分自身は幸せか。僕達はいろんな関係性の中でこの
世界で生きています。手と手の間にそういった全ての思いを込める、この祈る
という気持ち、動作を、人はいつの日か忘れてしまうのではないかというほど、
今の世は大変な世の中です。でも僕は、奈良に生まれてから、年を重ねても
忘れることなく、毎日手を合わせてきました。これからも続けていくしこれが
世の中に広がってほしい、素直にそう思っています。
今回のこの特別なステージは、非常に嬉しい気持ちでこの日を迎えましたが、
自分がどのようにこの場にいるのが正解か、どのような音楽を奉納させていた
だくべきか、とても悩みました。現代的な表現になりますが、心の眼で映して
いるものを音と言葉にして演奏させていただきました。奈良で何千年も前から
受け継がれてきた人々の思想や考え、心を、自分なりに表現することが、
奈良人の僕のお役目なのかなと思い、東京で作ってきました。ただこの大きな
空の下に立つと、自分が想像していた以上で、もっといけるかなとか、様々な
思いがありました。自分の体は奈良にいなくても、自分の中には奈良がずっと
生き続けている。その心の中の奈良に何度も問いかけながら、いろんな時間を
繋いでこの日を迎えました。
今もこうして虫の鳴き声が聞こえる、風の音も聞こえる。この場にはいない
奈良に住む人達の心の音も聞こえてくる。このような素晴らしい土地に、
自分が生まれた事を年を重ねれば重ねるほど、幸せな事だなとかみしめながら
生きています。自分が天に昇る時はやっぱり奈良がいいなと思いますし、
純粋な、たった一人の人間として奈良で天に昇れたらなと思います。いろんな
思いと闘いながら過ごしてきた中、こうして大仏様の前で歌唱し、演奏させて
いただける事を許して頂いた。僕にとって夢のようなお話でした。お声かけを
して頂いた愛を全身で受け止めて、関わってくれた全ての人に愛していますと
いう思い、また、今こうして自分が生きている事への感謝の気持ちを込めて、
歌唱と演奏をさせていただきました。
十四歳で東京に出て、奈良の心の話が伝わらない事が多く、小難しい人だとか、
真面目くさいと思われ、心で対話するのが怖くなりました。いろんな人達と
対話し、心の眼でその人達を見たり、その人が持っているエネルギーを感じ
ながら仕事をすると、とても苦しくなることが多いです。頭で対話する人が
多い環境に入ってしまうと、日本人は多数決に弱いので負けてしまう。
踏ん張って、逆らってもみましたが、自分自身も心が折れ、どうにもこうにも
ならなくなる事が多かったです。奈良に帰ってきては神仏に手を合わせ、
平城宮跡の広い空を眺めて自分を癒す、という事をよくやっていました。
自分の中では消化しきれない思いを天へと一度預け、成長したらその思いを
もう一度体内に戻す。何度も何度も奈良の空に救われて生きてきました。
言葉はとても怖いものだと思います。心の中で思っていなくても、こう言って
おけば人は納得するだろう、自分の事を好きになってくれるだろう、最近、
そんなふうに人は間違って言葉を使い、色々な文化や歴史を続けているよう
に感じます。大人は心で思っていない事を言葉にします。
僕は子供や赤ちゃんという魂と対話する時はとても心が楽です。なぜなら
思ったことをすごくはっきり言ってくれる。素直な魂と対話すると安心するし、
自分はこのように生きたいだけなのにな、と思う事がすごくあります。自分に
嘘をついて演じて生きているわけではないですが、周囲に合わせていると、
本来の純粋な自分では時間を過ごせなくなります。奈良に帰ってくると自分の
中の欲も見えて来ます。
昨年体を患って、自分が出来なくなったことが増えました。ネガティブな
感情は持っていませんが、周囲の期待に応えられない自分が悔しい。でも
苦しい中で学ぶことも沢山ありました。自分は不思議といただく御縁があり、
いろんな人と繋がって今があります。出会う人は愛情深い人が多く、
そういった人達に支えられ、救われて、今を生きている事が出来ています。
今後、この体がどう動いてくれるのかは自分でもわかりません。でも自分が
生きている事は一番理解している。その中で、この一度きりの人生を自分の
色彩で彩っていきたいと思います。
奈良への思いを込めた曲は沢山ありますが、最後に歌った「街」は奈良から
東京に行く自分を見送り、東京に出た自分は、奈良に残してきた自分を振り
返るという、そんなストーリーがある歌です。僕の中では奈良に対する思い
が詰まった一曲なので歌わせていただきました。奈良への愛や、自分の体を
愛する難しさなど、いろんなものがこみ上げて胸が熱くなり、申し訳ありま
せんが涙を流してしまいました。自分ではここまで感情がこみ上げてくるとは
思っていませんでした。大好きな場所で、奈良を愛しているよという歌を歌う、
愛しすぎて涙があふれる。このステージでは不思議な事が沢山ありました。
ライブ中に一瞬、夢で見たシーンが重なりました。よくある事なのですが、
今日という日を大仏様が夢で先に見せてくれていたのかなと、不思議な感覚に
なりました。
人生は一度きりです。皆さんも悔いのないように自分の色彩に従って欲しい。
自分の色を認識することで、人や場所、物との出会いが目まぐるしく変わり
ます。僕を含め、まだ気づいていないそれぞれの色があると思います。
僕は今日という幸せな日を機に、新しい自分をもっともっと発見し、一日一日
感謝しながら、大切に生きていきたいと素直に思っています。皆さんと繋がる
事が出来て本当に嬉しいです。またどこかでお会いできることを心待ちしてい
ます。愛しています。ありがとうございました。
(9月の東大寺の奉納の演奏終了後に、本人が舞台でお話しした内容を抜粋して
書かせていただきました。最近は小切りの舞台の少し前に、両耳が数分聞こえ
なくなるという怖い経験をしていますが、常に冷静に、覚悟をしながら生きて
います。私は彼の聴力を奪わないで下さい、最後まで音霊と言霊の仕事を
させて下さいと神界にお祈りをしています。)