|
テーマ:今日の出来事(292837)
カテゴリ:教授の読書日記
今から40年程前、私がまだ英文科の学生だった頃、既に学者として一家を成していた大先輩、岩元巌先生がお書きになられた『老残の記』という私家版の本を読了しました。
岩元先生は1930年のお生まれですから今年で94歳になられるはず。先生は今は千葉の方にある某老人ホームに暮らし、その一方でまだ仕事場を確保され、毎日、そこに通って筆を執られているとのこと。その意味ではまだまだお元気なのですが、しかしこの本によると、やはり寄る年波に抗うというのは難しいことのようで、お歳を召して体力が落ちてきたこともそうですが、その他、あらゆることに気力を失われつつあるとのこと。また断捨離でそれまで集めてきた貴重なアメリカ文学の本や資料など、身を切られるような思いで処分されたこととか、親しかった友人たちが次々と鬼籍に入っていくこととか。『老残の記』というタイトル通り、歳をとってあることのつらさ、苦しさを正直に吐露しておられる。 私の母が92歳で、現在老人ホームに入っており、その意味では岩元先生と同じような立場になるわけですが、私は岩元先生の子のご著書を、母の姿と重ねながら読みました。人生をどう終えるかというのは、誰にとっても難しいことなのだろうなと思いながら。 ちなみに、岩元先生は、私の師匠である大橋吉之輔先生と親しかったので、本書には大橋先生のこともちょっと出て来る。私にはそういう意味でも本書は読む価値のある本でした。 一方、今日は悲しい知らせも受け取りました。学会の友人で、私とほぼ同世代(私の方が少しだけ年下)の学者さん・H先生が亡くなられたと。60代半ばなんて学者としてはまだまだこれからのはずなのですが、ご病気のために前途を奪われてしまった・・・。 H先生とは、同時期に学会の役員をしていたもので、役員会が終わって、ちょっと飲み食いするような機会によくお話させていただいたものでした。まあ、それだけのお付き合いでしたから、本当のところは存じ上げませんが、私の知る限りでは非常に繊細な、そして穏やかな、やさしいお人柄の人でした。ちょっと歳の離れた奥様とのロマンスを伺ったことを覚えておりますが、奥様もまさか順番が逆になるとは思っていなかったでしょうし、ご落胆いかばかりかと思うと気が沈みます。 94歳、老残の苦しみを綴られた大先輩と、60代半ばで病に斃れた友人と。今日はそんなお二人のことを思う一日となってしまいました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
May 7, 2024 09:38:36 PM
コメント(0) | コメントを書く
[教授の読書日記] カテゴリの最新記事
|
|