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カテゴリ:教授の読書日記
高橋哲雄さんが書かれた『ミステリーの社会学』(中公新書)という本を読了しましたので、一言。
これこれ! ↓ 【中古】 ミステリーの社会学 近代的「気晴らし」の条件 / 高橋 哲雄 / 中央公論新社 [新書]【ネコポス発送】 著者の高橋哲雄さんという方(故人)は、文学者ではないんですよね。社会学者なの。で、社会学者の高橋さんが、ミステリーという文学ジャンルを社会学的に分析すると、まあ、そういう趣旨の本。 なんで社会学者がミステリーを、と思うかもしれませんが、よくよく考えてみると、ミステリーという文学ジャンルはとても特殊なんですな。 たとえば、ミステリーというのは、イギリスが圧倒的な産地なわけですよ。もちろん、アメリカのエドガー・アラン・ポーを始祖とする、というところはあるし、アメリカにはハード・ボイルド・ミステリー(ダシール・ハメットの『マルタの鷹』とかレイモンド・チャンドラーの『長いお別れ』みたいな)ものがありますから、アメリカだって、というところはありますが、いわゆる推理小説ということになると、やはりイギリスの絶対的優位というのはゆるがない。 逆に言うと、ドイツのミステリーとか、イタリアのミステリーとか、フランスのミステリーとか、ましてやロシアのミステリーなんてものはない(少ない)。つまりミステリーを産む国と産まない国があるということになる。 なぜか? 当然、何らかの社会的な条件があるわけでしょうな。たとえば、高等教育を受けた中産階級以上の層が大きいとか。いち早く産業革命をを成し遂げたイギリスには、有閑階級なるものが早くからあったわけでね。ミステリーは「暇つぶしの文学」なので、暇がある階層があるということは大きな条件になるわけ。 あるいは、「フェアであること」や「アマチュアリズム」を重んじる国柄であるとか。ミステリー作家の多くは、アマチュアですからね。また「フェア」と「アマチュア」を重んずるということは、近代スポーツの特徴であって、イギリスは近代スポーツの発祥国でもある。つまり、近代スポーツとミステリーには共通点があると。 しかし、そのミステリー王国イギリスでも、時代によって人気のあるミステリーの傾向は変わってくる。ホームズものが人気があった時代もあれば、クリスティものが流行った時代もあれば、○○が流行った時代もあれば・・・と、その変遷をたどることができる。となると、「なぜその時代に、そういう種類のミステリーが流行ったのか?」という疑問が出て来るわけで、それを考えていくと、やはりその時代その時代の社会状況が大きく関わってくる。だから、社会学者がミステリーを論じるというのは、決しておかしなことではないんです。 というわけで、この本、新書本ではありますが、一読すると色々な意味ですごく勉強になるし、刺激にもなる。 実際、私が今研究している自己啓発本も、ミステリー同様、国を選ぶわけ。アメリカとイギリス連邦と北欧と日本と韓国だけが自己啓発本の市場であって、それ以外の国では読まれていない。それはなぜか?という問いは、当然あっていいわけですよ。 また時代によって自己啓発本の流行り廃りというのはあるわけで、それも各時代の社会状況による。 そう考えると、高橋哲雄さんがミステリーという特異な文学ジャンルを研究したように、私もまた自己啓発本という特異な文学ジャンルを研究している、という同志的なつながりがあるように思えてならないわけ。 そういう意味でも、私にはこの本、実に面白かったです。教授のおすすめ!です。 それにしても、こういう図柄の大きい文学研究を、社会学者にやられてしまった、というのは、文学者として忸怩たるものがありますなあ。 先日参加したアメリカ文学会の全国大会でも、研究発表のほとんどがタコつぼ論ばっかりで、高橋さんのミステリー論のようなすごい研究なんてありゃしない。もう、うちの業界の若い連中には、高橋哲雄さんの爪の垢でも煎じて飲ませた方がいいんじゃないだろうか。 ほんっと、情けないわ~。 【中古】 ミステリーの社会学 近代的「気晴らし」の条件 / 高橋 哲雄 / 中央公論新社 [新書]【ネコポス発送】 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
October 29, 2024 04:58:14 PM
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