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釈迦楽

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August 17, 2024
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カテゴリ:教授の読書日記
先日来読んでいたジョン・マルコフの『ホールアースの革命家 スチュアート・ブランドの数奇な人生』という本を読み終わりましたので、心覚えをつけておきましょう。

 この本を書くにあたって、マルコフはブランドがスタンフォード大学に寄贈した日記やら様々な記録、それから76回(各回3時間以上)に亘ってマルコフがブランドにインタビューしたものを元に、スチュアート・ブランドの生い立ちやラ来し方を綴ったもので、要するにブランドの伝記なんですな。だから、ブランドの業績について学術的に評価するとか、そういう意図で書かれたものではないし、何かを論じるといった体のものではない。ただ、純粋に、ブランドの伝記です。ブランドはまだ生きていますけどね。

 そういう意味で、ブランドの業績を論じる際のサポートというか、傍証にはなるけれども、それ以上のものにはなりそうもないな。

 例えば、この本を読むと、スチュアート・ブランドというのは、割と女癖が悪いんだ、とか、そういうことは分かるわけですよ。あと、やたらに鬱になる人なんだ、とか。でも、女癖が悪いとか、すぐ鬱になるとか、そんなことを知ったところで、ブランドの業績を論じる際には役に立たないでしょ? そういうことよ。

 だから、この本を読んだおかげで、私のブランド観が変わったとか、そういうことはないのだけれども、傍証としては面白い事実がいくつかありました。

 例えば、前にも言いましたが、ブランドのエクセター(予備校)時代、ジョン・スタインベック(というか、海洋生物学者のエド・リケッツ)に影響を受けたというのは、結構、大きい。要するにブランドの世界観の背景に、生物学があるってことですな。
 
 後、この人は、スタンフォード時代、東洋宗教学のフレデリック・スピ―ゲルバーグの影響を受けているんだけど、これはエサレン研究所のマイケル・マーフィーと同じ。実際、ブランドはマーフィーと仲が良かったんですな。大体エサレンで開催された第1回目のセミナー(1962年9月)に参加しているし。

 あと、この人はポール・エーリックの影響も受けているのだけど、そのことは特にエーリックの「共進化」という概念に顕著。ブランドは「co-evolution」というタイトルの雑誌も作っているしね。

 その他、気になった事実を幾つか挙げると、ブランドが最初にLSD実験に参加したのは1962年12月10日。ブランドはラム・ダスの『Be Here Now』の編集を手伝っている。

 ブランドは一時、アイン・ランドノリバタリアニズムに関心を抱いていたが、すぐにバックミンスター・フラー的なテクノロジー主義やマーシャル・マクルーハンの方に関心が移った。

 地球の宇宙写真をNASAに要求する運動については159頁。

 ブランドは「学習」こそが、個人と組織を共鳴させるものであると考え、その学習を促進させるツールこそが重要であるという考えを抱いた、という話は、163頁。このツールという発想が、『ホールアース・カタログ』につながると。

 『ホールアース・カタログ』の「今や我々は神のようになったのだから・・・」という冒頭の一節は、エドモンド・リーチからの引用(197頁)。

 カタログの初版は1000部(203頁)。初期反応については205頁。

 『ラスト・ホールアース・カタログ』の全米図書賞受賞については、238頁。当初、下馬評にもあがっていなかったが、「1971年に出た本の中で、後々まで記憶される唯一の本」という評で覆った。

 『エピローグ』出版の経緯については259頁及び264頁。エピローグには、ベイトソンの影響がみられる。つまり、フラーやウィーナーの影響を受けたカタログから、ベイトソン的なエピローグへの思想的発展があった。

 勝ち負けを競わない「ニューゲーム」については、262頁。

 カウンター・カルチャーからニューエイジへの移行については、267頁。「60年代にベイエリアのカウンターカルチャーの創造を促した潮流は、70年代にも深く浸透し続けていた。政治の世界では新左翼が分断化していき、ジョージ・マクガバンの理想主義的な反戦運動はリチャード・ニクソンによって潰され、ニューエイジと個人の成長運動が盛り上がっていた。「ホールアース・カタログ」が仕掛けた田舎へ帰ろう運動は衰退し、その場所にはもっと個人的な救済や啓もうを仕掛けるESTから禅までが入り込んでいた」。

 ブランドの「自給自足」の理想は、「クオータリー」の頃には修正されていた。(275頁)

 70年代のアメリカでは「自助」という概念が流行していたが、ブランドはこれに反対し、「他人を助ける」ことを重視した。(295頁)

 「パーソナル・コンピュータ」という用語を案出したのはブランド。(306頁)

 「情報はフリーになりたがっている」というブランドの言葉には前段があったが、この部分だけが引用されて広まってしまった。(320頁)

 ブランドは、『インナーゲーム』のティモシー・ガルウェイとも知り合いであった。(329頁)

 ブランドは仕事で日本を訪問したことがあり、日本の文化に魅了されていた。(345頁)


 とまあ、私にとって必要な情報はこんなところかな?

 そのほか、ブランドが『地球の論点』を出した時、環境保護推進派から裏切者的な扱いを受けたことなど、印象的な記述も多々あり。

 
 それにしても全体を通じて思うことは、スチュアート・ブランドという人が、決して天才ではなく、思想家でも哲学者でもないのだけれども、この時代のここぞという要のところにいて、情報の発信者として多大な影響力を持った、というところが面白いなと。かといって、彼はジャーナリストではないし。なんとも不思議な業績だよね!

 ま、そんな感じでしたかね。ブランドに興味がない人にとってはさほど面白くない本だし、興味がある人にとっても、巻置く能わざる、というほど面白くはない本だけど、読んで後悔するという本でもなかったかな。まあ、私には中途半端に面白い本でした。


これこれ!
 ↓

ホールアースの革命家 スチュアート・ブランドの数奇な人生 [ ジョン・マルコフ ]



 
 さて、1週間ほどに亘った実家での夏休みも今日で終了です。今日はこれから晩御飯をご馳走になって、名古屋に戻ろうかと。

 ということで、明日からはまた名古屋からのお気楽日記、どうぞお楽しみに!





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Last updated  August 17, 2024 04:13:10 PM
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