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カテゴリ:教授の読書日記
中村一枝・古川一枝による『ふたりの一枝』という本を読み終わったのですが、これがまた意外なほど面白い本でした。
中村一枝は尾﨑士郎の娘、古川一枝は尾崎一雄の娘なんですが、年齢もわずか1歳違いで、親同士仲がよく、結婚前はどちらも「オザキ・カズエ」だった上、二人とも早稲田大学に進学したという。そんな二人が熊本日日新聞に代わりばんこに昔の思い出を語るエッセイを書き、それが合わさってこの一冊になったと。実際には新聞に掲載されたエッセイ以外の思い出の記も含まれているのですけどね。 ちなみに中村一枝さんは、中村汀女の息子と結婚したので、汀女は義理の母ということになる。また尾﨑士郎は、一枝さんの母と結婚する前は宇野千代と事実婚状態だったと。で、千代との生活が破綻していたところで、銀座のカフェ・ライオンで女給をしていた一枝さんの母と出会い、そのまま彼女を連れて出奔したのだとか。 ・・・などなど、もうね、このエッセイ集の中に出て来る、この二つの家族にまつわる人脈というのはものすごいものがあります。例えば尾崎一雄は檀一雄と仲が良く、一時は同じ家に住んでいたと。で、二階に住む檀のところには山岸外史、森敦、太宰治、立原道造といった連中が遊びに来、一方一階を占拠している尾崎のところには浅見淵、丹羽文雄、田畑修一郎、外村繁、木山捷平などが集まって来て、さらに近所にいた上野壮夫が住んでいたものだから、そこには小熊秀雄、亀井勝一郎、神近市子、矢田津世子などが出入りしていたというのだから、なんともはや。 昔の文人たちの付き合いってのは、すごいね。 でまた、昔の人たちってのは、男女の関係がスゴイ。まあ、よく離婚するし、やたらに愛人がいる。そういう点では、ちょっと浮気したくらいで袋叩きに合う現代の風潮とはまったく違う、なんともおおらかな(おおらかと言っていいかどうかは知りませんが)風があったんですなあ。それから古川さんの母方の叔母は山原鶴で、湯浅芳子の晩年の愛人・・・というか、少なくとも同居人だったんですけど、そういうレズビアン的な関係も、割としれっと受け入れられていたようなところがあったらしい。 つまり、現代の日本より、昔の日本の方がよっぽど進んでいた、ってことでしょうか。 とまあ、この本に出て来る様々な人々の話が面白過ぎて、いちいち、調べ物をしながら読み進めることになるので、短い本なのに案外読み切るのに時間がかかるという。 とにかく、戦前・戦後の日本のある、どこかのんびりした一面を垣間見れるという点で、すこぶる面白い本なのでした。 この本、今は絶版のようですが、古本で探せば、どこかにはあるでしょう。あるいは図書館に行くか。見つけたらご一読をお薦めします。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
September 8, 2024 07:04:56 PM
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