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カテゴリ:教授の読書日記
日髙敏隆先生の『ぼくの世界博物誌』、読み終わってしまった。非常に面白い読書体験でした。
ところで、この本の後半は、日髙先生のご専門である動物行動学の話がメインになっているのですが、その中に、「蝶はどのくらい見えているのか」という話題が出てくる。 蝶々なんて、ごく当たり前に見かけるし、ああ、飛んでいるな、くらいにしか考えていなかったですけど、彼らがどんなつもりで・・・というか、どの程度の世界観でこの世界を飛び回っているか、彼らの視力はどのくらいのものか、考えてみれば、分からないわけですよね。 で、日髙先生は、それが知りたいと思ったと。 で、さすが研究者だなと思うのは、蝶の視力を確かめる方法を考え出すというところ。 そもそも蝶のオスは何のためにひらひら飛んでいるかというと、メスを探して交尾するために飛んでいるわけです。だから、彼らは始終、メスの姿を探して飛んでいるに違いない。 そこで、アゲハのメスの羽の標本をアクリル板に挟んで吊るしておく。で、そのアクリル板にアゲハのオスが近づこうとしたら、それはそのオスがメスを認識した、ということなわけです。 で、そうやって実験したら、アゲハの視力が分かった。1メートルか1.5メートルだったそうです。だから、アゲハは、1メートルくらいの視界のみで世界を見ていることになる。それ以上遠くは、ぼんやりとしか見えてないはずだと。 ちなみに、アゲハだから1メートルなのであって、モンシロチョウだと30センチくらいしか見えていない。周囲30センチの世界の中で、彼らは生きているのだと。 そうか。自分にごく近いところしか認識できないまま世界を生きていく、それが蝶の生き方なんだ。もしその範囲の外側から敵に襲われたら、ひとたまりもないですわなあ。 ふうむ! すごい発見ですな。科学者というのは、そうやって、すごく素朴でナチュラルな疑問から発して、いろいろなことを解明していくわけだ。 で、思ったのですが、こういう、ごくごく素朴でナチュラルな態度で、文学者も文学作品に接しないといかんのじゃないかと。 作品をよく読んで、「この作者はどうしてこういうことをこういう風に書いたんだろう?」という素朴な疑問を見付けること。そしてそれを考えていく中で、その作品の一層深い面白さを発見し、作者の思いに肉薄すること。そういう、素朴な文学論が読みたいし、書きたいなと。 最近の、特に若い人の文学論って、素朴な疑問からスタートしてないのが多いんだよな。 とにかく、日髙先生の本を読んで、私は色々なことを考え、色々なことを教わったのでした。 これこれ! ↓ ぼくの世界博物誌 (集英社文庫(日本)) [ 日髙 敏隆 ] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
October 15, 2024 07:33:04 PM
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