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釈迦楽

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November 17, 2024
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カテゴリ:教授の読書日記
常盤新平さんの書かれた『窓の向うのアメリカ』(恒文社)というエッセイ集を読了しましたので、心覚えをつけておきましょう。

 昨日ご紹介した本と同様、これも常盤さんがあちこちの媒体に書かれた短めのエッセイを編んだものでありまして、内容は様々。だけど、常盤さんがアメリカ(特にニューヨーク)に行った時の話が随所に出てきて、それでこういうタイトルになっているのでありましょう。

 結局、常盤さんは翻訳家であり、その関係でアメリカをよく訪問される。で、向こうに行けば、向こうのバーで飲んだり、レストランに入ったり、古本屋に行ったりするわけで、そういう「海の向こうネタ」がいくらでも書ける。そういうところが、常盤さんのエッセイストとしての強みなんでしょうな。

 それで、そういう常盤さんの「海の向こうネタ」を読んでいて気が付くのだけれど、常盤さんには自分が「おのぼりさん」であるという意識が非常に強い。

 たとえばニューヨークのセントラルパークを闊歩する気分を描いたエッセイの中にこんな一節が出て来る。

 日曜日の朝は天気がいいと、セントラル・パークを歩き、草花や木々を見てまわり、のどが渇くと、紙袋に入れてきた缶ビールを飲んだ。この公園の雪景色もいい。寒いけれど、ポケット・フラスクに入れたブランデーで体をあたためながら、日に輝く雪野原を見ていると、時間を忘れる。おのぼりさんが味わう緊張もほぐれてくる。
 ニューヨークではおのぼりさんを決め込む。そうすれば、目にうつるものが何もかも新鮮である。(9-10)

 
 ね。で、その「おのぼりさん」であることを、プラスに捉えているところが、常盤さん独特のところなのよ。おのぼりさんであるからこそ、異邦人であるからこそ、見えるものがあると。

 また常盤さんは、生まれてすぐに宮城県に移られ、高校時代までそこにいたので、東北人と言っていい。そんな常盤さんにとっては、東京に暮らしていること自体、おのぼりさんなわけですよ。だから、ニューヨークでなくても、銀座でも、やはり常盤さんはおのぼりさんの目で周囲を見渡している。たとえばこんな風に。


 朝の銀座を歩いてみた。平日の午前八時ごろ、ホテルの部屋を出て、朝めしを食べに出かけたのだ。(中略)
 地下鉄の出口からは出勤を急ぐ人たちが色とりどりの煙のように吐き出されてくる。彼らにまじって歩いていると旅行者になったような気がした。それも、おのぼりさんだ。(154-155)


 常盤さんは、このエッセイ集の中でもやたらに喫茶店に行ったり、定食屋みたいなところに入ったり、バーに入ったりして、そこでの経験を筆にしているんだけど、結局それって、常盤さんの中で消えることのない「おのぼりさん意識」のなせる業なのかもね。定住しているのに、常に旅行先にいるみたいな感覚があるというか。今時の言葉を使えば、彼は永遠のフラヌールなんでしょうな。

 あ、あとね、このエッセイ集では、山口瞳さんのことがよく出て来る。常盤さんは山口瞳に私淑していて、その信奉者というか、「最後の山口組組員」みたいに思っているらしい。

 で、なるほど、そうなのかと思っていたんですけど、山口瞳と常盤さんって、そんなに歳が離れているわけではないのよね。山口瞳の方が5歳くらい上なのかな? 私淑の度合いからして、少なくとも30歳くらい離れているのかと思ったら、さにあらずよ。

 で、もう一つ「へえ・・・」と思ったのは、常盤さんが一度離婚して、別な人と再婚していること。それも、なんか、まだ結婚している時に別な女に子どもを産ませちゃって、みたいなことだったらしい。それで、山口瞳のところに夫婦して相談しにいって、みたいなエッセイがあるんだけど、そんなことまで書いちゃうものですかね。

 案外、無頼っていう。火宅の人だったのね、常盤さんって。そんな風には見えないけど。

 ということで、仕事で常盤さんの本を次々読んでいって、へえ!と思うことが多いです。やっぱり、色々読まないとダメですな。





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Last updated  November 17, 2024 02:00:09 PM
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