生きながら火に焼かれて
タイトルからしてショッキングですが 更にショックなのは、 これがノン・フィクションで あることです。 恋をし、子を宿したため 生きながら火あぶりにされた少女の 衝撃の事実。 あ ら す じ中東のシスヨルダンの(ヨルダン川西岸)、ある小さな村で生れたスアドは、朝から晩まで、姉や妹たちと共に家事、畑、家畜の世話を、奴隷のように強いられていました。少しでもヘマをすれば、父親からベルトの鞭という罰が与えられたり、髪をつかんで引きずり回されたりそれは毎日のように行われていました。この村では、女性に自由は許されず、服装、外出、表現の自由も与えられません。そして女の子なら誰でも経験する恋なんて、もっての外!結婚前の恋愛はご法度で、視線を交わしただけで「シャルムータ」と、娼婦呼ばわりされます。女性は、親の決めた相手と、顔も年齢もわからないまま結婚し夫となった者に服従しながら、一生を送り、権利と呼べるものは何一つないのです。スアドは、本来なら10人以上の姉妹がいるはずですが男の子として生れた弟は、王子様のように育てられているのに不要となった妹たちは、生れると即行、母親自らの手で産湯に浸かることなく、闇に葬られていました。そんな村で、スアドは17歳のとき、恋をしました。そして、愛する人に身を許し、妊娠してしまったのです。村では、このような女性は 「シャルムータ」と蔑まれ家族の名誉を守るために、「名誉の殺人」という名の下に、処刑されてしまうのです。手を下した男は英雄とみなされ、殺さなければ その家族は村八分にされ、村を追い出されるのです。とうとう、スアドの妊娠がバレてしまい、両親たちがスアドを処刑する話合いを、スアドは聞いてしまいました。「いつ殺されるのだろう」 という恐怖と不安の毎日・・・両親が外出中、家事をしていたスアドのもとへ、突然義兄が現れると、いきなりガソリンを浴びせ、火をつけたのです。全身火傷という重症にあい、瀕死の最中、奇跡的にも救世主が現れました。福祉団体に勤める、ジャックリーヌという女性でした。スアドは、彼女の勇気ある、懸命な努力によって救い出されたのです。スアドは、20数回におよぶ手術を経て、現在ヨーロッパで夫や子供たちとともに、新たな人生を歩んでいます。スアドは命を取り留めたものの、手放してしまった我が子を想う様は母親なら、ほとんどの女性が科せられる心の痛みであり、そのうえ火に対するトラウマや、ケロイドとなった肌による生活の支障など鬱に陥ったり、心の傷はなかなか癒えませんでした。スアドが体験した、この恐ろしい因習が、シスヨルダンだけでなく世界のどこかで、今もなお受け継がれ、その犠牲となった女性の数は、年間6000件にも達するといわれます。また、逃げても執拗に居場所を突き止められ、殺された女性もいるそうです。スアドについて、詳細は公表されていませんが2004年には来日も果たし、生き残ったものの義務として世界に向けて伝えるため、最後の最後まで自身が体験した事を話し続けると結んでいます。「名誉の殺人」の犠牲になり、沈黙のまま暗やみの中に埋もれている女性たちのために、私も、スアドが記したこのおぞましい悲劇の現状を少しでも多くの人に知って欲しいと思いました。 著者: スアド / 訳: 松本百合子 出版社: ソニー・マガジンズ 税込 1,680 円