|
カテゴリ:アメリカスポーツ観戦雑記
出たきり邦人・北米・オセアニア編330号/4月1日配信号に掲載していただいた原稿です。
--------------------------------------------- 〓アメリカ・ミシガン発〓 道草みのむし三十路のみしがん 第19回★Big Dance on and around the campus 「それにしても、スポーツの話題が多いですねぇ」と時々メールをいただく。私が体育会出身だからということもあるが、なんせ娯楽の少ないこの中西部のド田舎では、スポーツ以外にさしたる楽しみがないというのも原因の一つ。とは言え、いつもスポーツの話ばかりではイカン、と今月は全然違うトピックを準備していたのだが・・・あまりにもホットな出来事が現在進行中なので、やっぱりスポーツの話題。しかし、ここはアメリカ。残念ながらサッカーの話ではありません。こちらは大学バスケットボールシーズンたけなわなのである。 “March Madness”とか“Big Dance”と聞いて、NCAA男子バスケットボールトーナメントのことだとわかる方は、アメリカン・カレッジスポーツファンに違いない。アメリカにいると、3月中旬から下旬にかけては、スポーツチャンネルでも新聞でもこのフレーズばかりが飛び込んでくるようになる。全米大学バスケットボールの頂点を決めるこのトーナメントは、全米スポーツファンにとっては3月の風物詩でもあるのだ。 今年このNCAA男子トーナメント、そして平行して行われているNCAA女子トーナメントでウチの大学のチーム・Spartansが揃ってまさかの快進撃。4月1日時点で、男女共にファイナル4まで勝ち進んでいて、今週末の準決勝戦に向け、大学町は文字通り大騒ぎになっている。男女揃ってのファイナル4進出は史上6校目の快挙だとか。 Spartansの男子は、2000年のNCAAトーナメントで優勝し、その時の話は今だに教授・学生問わずに好まれる伝説。それ以前には、マジック・ジョンソンがエースだった1979年にもタイトルを勝ち取っていて、バスケットでは有名校のひとつ。 特にヘッド・コーチのTom Izzoは若い選手・若いアシスタントコーチを育て上げることに定評がある有数の名監督。2000年のチャンピオンシップも彼による功績だが、大学コミュニティを虜にしたのは、彼が数々のNBAチームからの巨額オファーを断って、Spartansを率い続けていること。北部ミシガン出身の彼の、その破格のロイヤルティが、このコミュニティの彼への支持を絶対的なものにしている。 キャンパスショップで人気のTシャツのひとつは“Izzoism”とプリントされたものだし、2000年の大統領選挙の折、この界隈で一番ポピュラーだったバンパーステッカーは、ブッシュのものでもゴアのものでもなく、“Bush×、Gore×、Izzo 〇”というものだったほど。デトロイトの大手新聞は彼のことを「単なるヘッドコーチではない。大学全体の大使なのだ」と称した。 そんなIzzoに率いられながらも、2000年以降のSpartansは揮ったり揮わなかったりで、2001年こそファイナル4までいったが、2002年は初戦敗退、2003年はエリート・エイト、昨年はまたしても初戦敗退で、話題にすらならなかったものだ。 それが、第5シードでスタートした今年のトーナメントでは、スウィート・シックスティーン(ベスト16)戦で、大本命・第1シード校のDuke大学を破ってスポーツ・コラムニスト達をあっと驚かせ(いや、慌てさせ?!)、先週日曜日のエリート・エイト戦では、第2シード校の強豪Kentucky大学を、目まぐるしいシーソーゲームと二度にわたる延長戦の末に下して、ファイナル4をもぎとったのだ。 たかが大学スポーツで“街中が大騒ぎ”とは大げさな、と思われるむきもあるかもしれないが、アイビーリーグ校でもなければ、東海岸や西海岸の超有名校でもない地方州立大学にとって、大学スポーツが果たす広告塔としての役割は生半なものではない。 全米ネットワークやスポーツチャンネルで盛大に放送されるバスケットボールやフットボールの出来は、大学の寄付金集め、優秀な学生のリクルーティング、スポーツ特待生のスカウト、或いは卒業する学生の就職活動に至るまで、良きにつけ悪しきにつけ、大学経営のあらゆるところに影響を及ぼす。大学の名声が上がる・・・以上に具体的な波及効果があるから、ウチのようなマンモス大学がスポーツチーム運営にかける気合はハンパではない。 この快進撃による財政面でのプラスはすでに見え始めている。例えば、ウチの大学が所属するBig Tenと呼ばれる11の大学からなるスポーツカンファレンスは、今回のトーナメントで3チームがエリート・エイト進出を果たしたことによりメンバー大学それぞれが130万ドル(約1億3650万円)を受け取ることになる。お金の出所は、NCAAとトーナメントのTV放映権を持つCBSスポーツとの契約金。このインセンティブをどう使うかは、各大学に一任されているそうだ。 大学当局はもちろん、キャンパス内外の騒ぎは言うまでもない。日曜日試合直後から、日刊の大学新聞はもちろん、地元紙、地元テレビ局、そしてデトロイト地区の新聞やテレビ局にいたるまで、ファイナル4進出に大フィーバー。ダウンタウンの大学グッズショップも火曜日にはファイナル4・Tシャツや帽子を売り出し、飛ぶように売れているそうな。大学新聞のオンライン投票では、66%の回答者が何らかのファイナル4グッズを買うつもりだと答えている。 大学側は今週土曜日の準決勝戦では、キャンパス内のアリーナを、セントルイスで行われる試合を大型スクリーン観戦するために無料開放することを決定し、ローカルニュースやケーブルチャンネルでその案内が流されている。同じBig Tenカンファレンス内でファイナル4まで生き残ったIllinois大学とSpartansのオフィシャル・ファンチームは、セントルイスの会場前でお互いに応援Tシャツを交換し、互いの健闘を祈ることにしたそうだ。 この話題がこんなにホットなのは、ただ浮かれ騒ぎばかりでなく、大学街コミュニティにはさらなる深刻な懸案もあるためだ。 1999年にSpartansがファイナル4戦でDuke大に敗退した時、ダウンタウンで約1万人の暴動が起こり、クルマに火をつけるは、商店の窓ガラスは割るはで被害総額25万ドル(約2625万円)という騒動になった。投入された催涙弾類は135発、132人が逮捕され、うち72人が大学の学生だったこの暴動で、全米に“暴動大学”というおよそありがたくないニックネームが流布してしまった。 大学側もいろいろ対策を講じたのだが、2003年、エリート・エイト戦でテキサス大に負けた時にも再び暴動発生。規模は2000人と前回よりマシだったが、被害総額4万ドル(約420万円)、催涙弾など135発が投入され、30人が逮捕されてしまった。 さすがにこの時には州議会も怒り狂い、州立大学への予算カット提案が議会で取りざたされただけでなく、州政府・市政府共に、使用した催涙弾の請求書を大学へ転送するか否かといった話まで持ち上がったほどだった。 そんな経緯があるから、日曜日のエリート・エイト戦直前のダウンタウンはあちこちにパトカーが待機。試合直後のローカル・ニュースのダウンタウン中継は『暴動ナシ』の大見出しでスタートするという有様。大型スクリーンを備え、スポーツゲームの折には客で溢れるダウンタウンのレストランやバーでは、店で使う食器を、陶器やガラスからプラスチックに変えて土曜日の準決勝戦に備えるのだそうだ。 キャンパス界隈では、“節度ある観戦パーティ”を訴えるチラシやポスターがいたるところに張り出され、ローカルラジオの公共アナウンス枠でも同様のメッセージが流される。大学当局が今日行った記者会見では、学長が地元警察と市当局のスタッフと一緒にプレスの前に立ち、大学側の暴動防止にかけたやる気と本気をアピールしていた。 さらに今日昼過ぎには、大学留学生課からメールが届き、留学生課のホームページ内に特設された『Celebration 101』というページを読めとのお達し。当のページは「暴動は逮捕の対象」、「あまりよく知らない人々とのパーティに出かけるな」「パーティによる騒音行為は1000ドルの罰金と3日間の刑務所」「誰かが急性アルコール中毒になった時には」と微に入り細にわたる内容を、非常にわかりやすい英語で説明してあった。 続いてアカウントに届いたメールの差出人はなんと『Coach Tom Izzo』。「Make no mistake, the world is watching... Your celebrations have been full of Spartan Pride and they’ve been appropriate and respectful of others.(適当訳:世間が注目する中で過ちを犯すな。キミ達の祝い方はこれまでSpartansの誇りにかない、適切で他への敬意もあったのだから)」3段落にわたるe-mailは、これまでのサポートに感謝を述べつつ、暗に「暴動は起こすな」というメッセージだった。 大学当局、スポーツ運営部、学内の各セクションやキャンパス自治警察、市当局や地域警察と周辺コミュニティが連携した危機管理対策が透けてみえる。いい加減懲りているからとはいえ、大学と周辺コミュニティ、大学生と周辺コミュニティが、隣の他人ではなく同じコミュニティのメンバーとして普段から関係を築いているからこそだとも思う。 東部時間の4月2日土曜日夜、SpartansはNorth Carolinaと決勝進出をかけてのゲームである。下馬評では断然North Carolina有利というゲームの勝敗の行方は、もちろん気になるどころの騒ぎではなく、私も友人10人と誘い合わせてTV観戦の予定だが、ゲーム後のキャンパス界隈の動向も気になるところ。地域コミュニティあげての危機管理対策が機能してほしいものだ。 今週末はまた氷点下、雪模様になるらしいミシガン。三寒四温で、少しずつ春の気配が感じられるようにはなった。バスケット騒ぎが終わる頃には一気に春がやってくることだろう。 Pupa お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[アメリカスポーツ観戦雑記] カテゴリの最新記事
|