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November 12, 2006
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カテゴリ:プロレス映画
プロレスはメジャースポーツか?
 中学生くらいまでは、プロレスがメジャーなスポーツだと思っていました。何か胡散臭い雰囲気は、プロ野球や大相撲などとは異なる印象がありました。けれど、プロレスには、稀代のスーパースター力道山の華やかなイメージが根強く張り付いていたのです。
力道山は、プロレスのチャンピオンであるばかりでなく、日本プロレス興行の社長であり、実業家として手広く事業を行って、箱根にゴルフ場を経営する計画までありました。外車やモーターボートを颯爽と乗り回す姿など、貧しかった当時の日本において、豊かな国アメリカのリッチマンを体現した憧れの存在でした。
 それと、日本プロレスは、金曜8時のゴールデンタイムにテレビ中継がありました。アナウンサーが「全国2千5百万のプロレスファンの皆様こんばんは」と言っていたように、高視聴率を誇っていました。だから、力道山の死後も、彼の弟子であったトップレスラー、ジャイアント馬場、アントニオ猪木たちは、日本国民の誰もが知る存在であり、同時に大スターのムードをもっていました。

アメリカ人は自国のチャンピオンを知らない!
 さらに、プロレスは、日本人のレスラー同士が闘うのではなく、外国人レスラーとの対戦が売り物でした。年間に7か8くらいのシリーズがあったと思いますが、そこへは必ず8人ほどの外国人レスラー(たいていはアメリカ人)が参加しました。まだまだ海外旅行など、一部のお金持ちの人がするものだったし、たまに外国の大物ミュージシャンが来日してコンサートを開くと、マスコミがこぞって大騒ぎする時代でした。だから、外国人レスラーは、みんなスターに見えたものです。
 一シリーズに来る外国人レスラーの中には、一人か二人、エースと呼ばれる存在が必ずありました。彼らは、アメリカでも超一流のレスラーで、馬場や猪木とタイトルマッチを行います。巨漢で、オリジナルの必殺技をもち、輝くばかりの存在感がありました。
 1970年代に、ロサンゼルスから来たアメリカ人の留学生と知り合いました。彼に「ドリー・ファンク・ジュニアを知ってるだろ?」と聞いたことがあります。そうしたら「誰だ、それは」との返事が返ってきました。えっ?と思いましたが、付け加えました「NWAの世界ヘビー級チャンピオンだよ。テキサス・アマリロ出身の」。そうしたら「そんな田舎の地名は知らない」で話は終わり。
 ウソだろ。プロレスに興味のない日本人だって、馬場、猪木の名前は知っているぞ(アメリカ人が知らないレスラーの出身地名を知っている日本人もいるぞ)。しかし、彼は本当に世界チャンピオンの名前を知らないのです。これはどういうことだ。
 さらに、アメリカ人でオクラホマ州立大学出身の教授の授業を受けたので「オクラホマ州立大学といえば、有名なダニー・ホッジが出た大学ですよね」と話しかけたら、やっぱり「知らない」。ダニー・ホッジは、オリンピックのメダリストからプロレスの世界チャンピオンになった人なのに。
 以後アメリカ人と見るたびに「ミル・マスカラス」「アブドーラ・ザ・ブッチャー」「ハリー・レイス」などと言ってみたのですが、返事は「知らない」「知らない」「知らない」。
 アメリカにおけるプロレスラーの知名度とは、こんなものだったのか。いずれ本場のプロレスを見に行こうと思っていた者にとっては、そのショックはいかばかりのものだったでしょう。

プロレス団体は劇団だ
 メジャーなイメージのあった日本プロレスも、猪木と馬場が離脱して自分のプロレス団体をつくり、ついに潰れます。そして猪木と馬場の団体からも、レスラーが抜けて新しい団体を作ったりして、ついに1990年代には30以上のプロレス団体ができた。もうだれも正確なプロレス団体の数はわかりません。
 外国人の選手は限られた人数になり、日本人同士の対戦が主流になりました。
 プロレスラーとは、人間離れしたトレーニングを積んだ特別な存在でした。しかし、80年代から「学生プロレス」なるものが出現し、クラブ活動で試合を行った。フツーの人間にも気軽にプロレスができてしまいました(彼らは彼らなりにトレーニングをしたのでしょうが)。
 そうなると、新日本プロレスなど伝統的な団体もある一方で、プロレス好きの誰かが同好の士を集めてプロレス団体を旗揚げすると名乗り出れば、彼らはプロレスラーとしてリングに立つことになってしまうわけです。プロ野球でもプロボクシングでもありえないことです。
 これは演劇の劇団に似ています。劇団四季や文学座といった有名劇団もあれば、全国各地に芝居好きが趣味で集まった劇団もあります。プロレス団体もそんな様子。さらに、プロレス団体が全国各地を巡業して回る形態は、大衆演劇の旅芝居を思い起こさせます。
 力道山時代は、プロレスがやってくるとなると、盆と正月が一度に来たような華々しい一大イベントでした。今は、聞いたことのない名前のレスラーたちがやってきて、ひっそりと試合をして帰っていくなんてことがあるわけです。
 
プロレスラーの息子のプロレス嫌い
 「お父さんのバックドロップ」は、プロレスラー下田牛之助と息子の一雄の物語です。
 一雄はプロレスが大嫌い。巡業バスに乗ってうらぶれた商店街や漁港などを訪れ、少ない観客の前でリングに立つ父の姿がみすぼらしく感じるのか、悪役に転向して、髪を染め、顔面にペイントを施し、凶器を振り回す様子に嫌悪感をもっているのか。学校の友達に対して、父がプロレスラーであることを必死に隠します。
 息子がプロレスを嫌いなわけは、地方巡業に明け暮れる父が、運動会にも誕生日に不在だったばかりか、母(牛之助にとっては妻)の死に目にも現れなかったことに対する抵抗だったのです。これは、プロレスラーでなくて、仕事人間のサラリーマンにもあてはまるストーリーですね。けれど、父親が弱小団体のプロレスラーということで、陰影がくっきりと現れます。

プロレス映画は覆面レスラーで
 プロレスラー下田牛之助を演じるために、俳優宇梶剛士はトレーニングを積み、12kgの増量を行ったという。見上げた役者根性です。しかし、残念ながらプロレスラーのボディに見えるかというとそうではない。日韓合同映画「力道山(2005)」でタイトルロールを演じたソル・ギョングも、体重を増やしてプロレスラーらしく見せようとがんばったそうです。でも、力道山に似せた上半身裸のポーズ写真は、海水浴に来て記念写真を撮ったようにしか見えませんでした。
 一度、地下鉄でプロレスラーと隣り合わせたことがありました。彼は中型で、決して大きいほうではありません。しかし、ちゃんとトレーニングを積んだレスラーだったので、首や二の腕の太さ、胸の厚みなどは、半端じゃありませんでした、ホントに。
 プロレスの映画をつくるとしたら、日常的な場面は俳優さんがやって、リング上は覆面レスラーという設定がいいのかなあと思っていました。それは、試合場面で技の攻防を演じるのもさることながら、体つきがちがうからです。

なぜ異種格闘技戦なのか 
 「お父さんは、ボクやお母さんよりプロレスが好きなんでしょ」。息子の言葉に、そうじゃないんだと下田牛之助は立ち上がる。引退も囁かれている身でありながら、空手世界チャンピオンにリアルファイトで挑戦し、息子のために必死に戦う姿を見せます。悲壮感が漂います。また、下田牛之助が、じつはオリンピックの代表選手で、もう一歩でメダルに手が届いたけれど惜敗したとの過去も明らかになります。
 なぜプロレスの試合ではなく、空手と闘うのでしょう。さらに、どうしてオリンピック選手である必要があったのでしょう。叩き上げのプロレスラーではいけないのでしょうか。
 空手は武道として世間的に認められています。また、オリンピック選手とは、いわばスポーツ・エリートで、やっぱり世間に認められています。その二つが、異種格闘技戦で真剣勝負を行うとの設定で、プロレスの立場はどこにあるのか、と言いたい。プロレスラー下田牛之助の人生を賭けた大勝負ということはわかるのですが・・・。

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Last updated  November 12, 2006 07:02:03 AM
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