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January 14, 2007
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カテゴリ:カンフー映画
 「燃えよドラゴン(1973)は、ハンの組織を滅ぼすため(個人的には妹の敵討ちのため)に闘う。「片腕ドラゴン(1972)」は潰された道場と失った片腕の復讐のために闘う。そして、「上海ドラゴン」は、出世のために闘う。なんか動機に共感できない。ちょっと俗っぽいぞ。「今は車磨きだが、今に必ず出世する」「俺が出世したら、みんなに恩を返す」自信満々だ。
 主人公馬永貞(実在の人物 以後マー)のいう「出世」とは、会社の社長になるとか政治家になるとかではない。成り上がって親分になることを夢見ている。しかし、マーは既成の組織に属す気はまったくありません。どーしても、自分一人の力で、ステップアップしていくことにこだわっている。根性があるね。
 映画の中で、実際に階段昇るシーンがある。安宿で、金がなくて通路の片隅に寝させられていたマーだが、ならず者一味を追い出したことで「2階の部屋を使っていい」と優遇される。マーは一人、一歩一歩階段を上がっていく。じつに象徴的だ。
 香港ショー・ブラザーズの作品には、往年の日活テイストを感じる(スタッフの交流があったりして、日活映画の影響は大きかったとのこと)。「フィストバトル/拳撃(1978)」などは、和田浩冶や松原智恵子が登場してくるんじゃないかと思った。「上海ドラゴン」も、日活映画香港撮影所作品牡蠣油風味だ。
 日活といえば、大スター小林旭。彼は、大部屋俳優時代から周囲の人々に「すぐに主演作を撮りますから」「俺はスターになりますよ」と豪快に語っていたという。マーのキャラクター設定に似ているではないか!
 この作品は、「カンフー・ハッスル」の元ネタといわれる。出世を夢見る主人公が相棒とともに行動する、敵のならず者一味が武器として“斧”を使っている、上海を舞台としている、などのことから。「カンフー・ハッスル」のせこいチンピラ、シンは、ずっと負け犬で、弱い者いじめで憂さを晴らす。その惨めさによって、後半のスーパーヒーローへの劇的大変身が生きてくる。対するマーは、最初から威風堂々、たとえ財布が空でもプライド高く行動し、傲慢ささえ感じさせる。しかし、親分と呼ばれる身分になってからも、ショバ代が払えない商人に寛容さを見せる。暗黒街のならず者一味とは異なる人格、「いい人」を表現している。
 マーは、上海の大物タン・リーに憧れる。タン・リーを演じるのはデビッド・チャンだ。デビッド・チャンは、「風間トオル」似と聞くが、髪型などから「近藤正臣」似といいたい。拳法も強いが、上等な服を着こなし、吸い口パイプでタバコを吸いながら特注の馬車を乗り回す。ひたすらカッコいい。「いつかああなってやる」粗末な身なりをして、屋台で食事するマーは誓う。やがて階段を昇り始め、金が入るようになると、まずパイプを買う。さらに景気がよくなると同じデザインの馬車を注文して、タン・リーに近づいてきた自分を味わう(やや単純?)。
 粋でスマートな佇まいを見せるタン・リーだが、大ボス、ヤンの奸計に陥る。スターがやられる、負けるといった状況は、相当な気配りが必要だ。ジャイアント馬場やアントニオ猪木も、ときには負け役をして変化をもたせないと客に飽きられる。でも、あっさり実力勝負で悪役レスラーに負けてしまっては、最強善玉レスラーの商品価値が急降下して客足が遠のく。だからアブドーラ・ザ・ブッチャーやタイガー・ジェット・シンの反則、凶器攻撃など、汚い手によって負けてしまったとのストーリーをつくるのだ。それでも、完璧に傷がつかない負け方などはとても難しい。凶器を奪うチャンスがあったのになんでそうしなかったのか、などとどこかで弱点を見せてしまう。
 タン・リーの場合は、信じていた部下に裏切られ、自慢の馬車のシートでナイフによって深々と腹をえぐられる。それでも気丈にヤン一味を蹴散らす大立廻りを演じる。やがて力尽き、馬車にもどってシートに身を沈める。パイプのタバコをくわえてこときれる。“スター”デビッド・チャンの商品価値を損なわず、ファンの感涙を絞る演出だ。最期の言葉は「子分に裏切られちゃいうことないや」。その通り。死に際もひたすらカッコいいが、ちょっとお人好しだぞ、大物タン・リー。
ヤンがつぎに狙うのは、マーだ。会食への招待を装って、マーを襲撃しようと謀る。
マーは考える。
 「行こう。俺は上海で勝負する。もっと高い所に立ってみせる」
 「ヤンは上海では有名人だ。約束は守るはずだ。俺とサシで会うはずだし、人が多い場所だから 手出しはできない。何かあればすぐ隣にいるヤンを殺す」
 マーは、タン・リーの復讐をするために、ヤンの誘いに乗ることにした。
 ヤンは、料理屋の客も店員もすべて自分の子分に入れ替えてマーを待つ。単身乗り込むマー。卑怯といえば卑怯なヤンなんだが、マーの方も甘い。ヤンの手口が汚いことはわかっているじゃないか。いかにカンフーが強くても、策をもっていないと対抗できないぞ。
 料理屋での大激闘は、15分以上続く。しかも、マーは腹部に斧の攻撃を受け、斧が刺さったままの状態で闘い続ける。あらかじめハンディをつくり、ぐっと主人公よりに観客の気持ちをつかんでいる。タフネス・マーは、ヤンの手下ども、そして幹部の四大天王も倒し、ヤンに迫る。さすがにマーも力尽きてきた。2階に逃れるヤンを追って、マーは手すりにつかまって階段を昇る、血まみれになりながらはいつくばって階段を上がる(「呪怨(2003) 」の伽椰子は血まみれで下ってくる)。しかし、蹴落とされて階下に落下。じつに象徴的だ。
 するとマーは、階段を支える柱を破壊する。一挙に崩れ落ちる階段。自分が昇れないなら、上海の大ボスを引きずり降ろしてやれってなもんだ。ついにヤンを倒し、自らも笑って死んでいくマー。すべてを投げ打って憧れの人物の仇を討ち、短い一生を終える。
 「出世」は、地位や金に執着してこそ叶うのかもしれない。裏社会で「出世」するためには、どんな手段を使ってでも、生き残りたいとする執着心が必要なのだろう。カッコいい“滅びの美学”とは対極にある。

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Last updated  January 14, 2007 06:36:43 AM
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