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February 18, 2007
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カテゴリ:ドラマ
 これまで数々の映画にハマってきました。特撮怪獣、007、マカロニ・ウエスタン、カンフーなど。
“ハマる”とは、どういうことか。例えば、「ボクはジャイアンツにハマっているんですよ」と言った人が、テレビでジャイアンツの中継をほぼ欠かさず見る、あるいは東京ドームにも出かけることがあるといった程度であったなら、その発言は即座に却下されるでしょう。許されるのは、一軍はおろか二軍の選手の名前と背番号が全部空で言える。それは、時間の許す限りよみうりランド内のジャイアンツ球場へ行って、イースタン・リーグ(二軍の試合)も見ているからなのです。試合後は、目についた有望選手について、ファン雑誌「月刊ジャイアンツ」に投稿することも忘れません。さらに、信州大町市・市野屋商店の吟米醸造「不滅の巨人」(東京読売巨人軍の公認製品。酒の貯蔵タンクの中にスピーカを沈め、ニールセンの交響曲第四番「不滅」とマーラーの交響楽第1番「巨人」を聞かせている)を飲みながら、今シーズンの展望を占う。これが、“ジャイアンツにハマる”ということです。
 ジャイアンツにこだわれば、どこまでもジャイアンツ関連事項へ触手はのびていくのです。
 当方がハマった特撮怪獣、007、マカロニ・ウエスタン、カンフーなどは、どれも一時期大ブームを巻き起こしました。ブームが終わって熱が冷めたり、時期が来たら卒業するようでは、恥ずかしくて“ハマった”などとは言えません。新旧作品を見たり、関連書を読んだり、今でもブームの渦中にいる気分です。嬉しいことにクエンティン・タランティーノ監督は、「キル・ビル(2003)」で過去のジャンル映画にハマっていることをアピールしてくれました。時流に関係なく、映画から受け取った衝撃をずっと新鮮なまま持ち続け、さらに自分流に表現できるところに畏敬の念を抱きます。
 最近1本の映画にハマりました。それは「嫌われ松子の一生(2006)」です。
監督は中島哲也。この監督の「下妻物語(2004)」がとてもおもしろかった。ストーリーや登場人物の描き方、映像センスなど、大変斬新に感じました。若い女性をターゲットにした作品なのかもしれませんが、おやじが見てもハマりかけたほどです。
 「嫌われ松子の一生」は、その中島監督の作品ということで興味をもちました。期待に違わぬ作品で、不幸の殺人フルコースのような松子の一生を、ミュージカル仕立てにしたり、アニメやCGを活用したりして、明るく逞しいまでの物語として見せてくれました。
 同じように悲劇的な女性を描いた「ダンサー・インザ・ダーク(2000)」は、主役のセルマが、視力が失われつつあり、息子もまた手術をしなければ失明してしまう状態で、さらに工場を解雇され、なけなしの貯金を貸してくれと迫られたり、医療費が盗まれたりします。もう途中で見ていられなくなって、DVDを止めてしまった。こちらは悲惨さが怒濤の寄り身一直線の作品だったのですが、「嫌われ松子の一生」は初代タイガーマスクが得意とした華麗な空中殺法を交え、剥き出しになりそうな悲惨さを緩和していました。レンタルDVDで見たのですが、「嫌われ松子の一生」愛藏版DVDを買って、何度でも繰り返し見たい。最初の感動を追体験するために、そして、新しい発見をするために。
 主役の松子を演じるのは、中谷美紀です。じつは、中谷美紀と柴咲コウの区別がつきませんでした。DVDのパッケージ写真を見たときには、「柴咲コウ主演」と勘違いしていました。途中、松子の甥である笙の恋人明日香役で柴咲コウが登場します。その場面を見て、松子と明日香は演出上の意図から一人二役にしているのかと思いました。クレジットで中谷美紀と柴咲コウの名前を見たときでさえ、同じ女優さんが名前を使い分けているのではないかと疑っていました(しつこい?)。
 嫌われ松子の一生」のおかげで、中谷美紀さんをはっきり認識することができました。すかさず「力道山(2005)」を見直しました。このあと「ケイゾク/映画~Beautiful Dreamer~(2005)」や「LOFT(2006)」を見たいと思っています。
 「嫌われ松子の一生」は、映像と同時に音楽もすばらしかった。タランティーノ監督は、過去の映画だけでなく音楽にもマニアックなこだわりをもっていて、「キル・ビル」や「ジャッキー・ブラウン(1997)」などで、各シーンもそこに流れる曲も印象に残る使い方をしています。中島監督の「下妻物語」そして「嫌われ松子の一生」も、音楽と画像によるツープラトン攻撃が、見る者の感性を刺激します。
 今回は二種類のサウンドトラックCDが出ました。「嫌われ松子の歌たち」は歌を集めたCD、「嫌われ松子の曲たち」はインストゥルメンタルを集めたCD。最近のサウンドトラックCDは歌が中心になる傾向があり、インスト部分が手薄になっていることに欲求不満を感じていました。けれど、聞きたい曲が全部聞ける。映画のシーンを思い出したり、音楽としてだけでも楽しんだりしています。この作品に参加した音楽家のちがう曲も聞いてみたくなりました。
 この作品は、山田宗樹の小説が原作になっています。だいたい映画を見ると原作の小説やノベライズを読むことにしています。それによって映画では読み取れなかった部分がわかったり、また小説と映画の異なる部分が理解できたりします。小説版の「嫌われ松子の一生」は、悲惨さが強く感じられました。冒頭、校長からセクハラを受ける件ですでにお気の毒になり、読むのをやめようかと思いました。
 書籍類に関しては、「ゴールデンタイム 続・嫌われ松子の一生(山田宗樹著)」「シナリオ完全収録『嫌われ松子の一生』オフィシャル・ブック」などが出ていて、いずれも読んでみたい。極めつき「主演女優が書く制作日記『嫌われ松子の一年』」は、中谷美紀の著書!凄味のあるメイキング本です。松子の一生も壮絶でしたが、撮影現場もかなりハードだったことがわかります。中島監督は「プロの女優さんをほめるのは逆に失礼」という哲学があり、演出に際して主演の中谷美紀に「殺してやる」、「女優やめろ」などと罵倒したとのこと。人間は、常々自分ばっかりが辛い目にあっていると思いがちですが、華やかな女優さんでも、逃げ出したいという気持ちを抱きながらがんばっていたのです。励まされました。中谷美紀の他のエッセイや旅行記も読みたくなった。
 それから、「下妻物語」の原作(嶽本野ばら著)を読んでいなかったので、これを機に手に入れなければなりません。
 という具合に、映画に“ハマる”とは、一本の映画に止まらず関連する先へ次々とリンクを延ばしていくことだといえます。ジャイアンツにしても、映画にしても、そのエッセンスが感じられるものはどこまでも追究していく、それが“ハマる”ってことだ。
 こういう状態を、どつぼに“ハマる”ともいいますが。
(私はジャイアンツ・ファンではありません。念のために)

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Last updated  February 18, 2007 06:35:44 AM
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