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March 11, 2007
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カテゴリ:ドラマ
 カツアゲに遭遇したのは、高校生になって間もない頃でした。学校帰り、日が暮れていた。竹山君の先導で、数名の友達と彼の家に向かう途中。駅裏の暗がりから、20人くらいの丈の短い学生服(短ラン)に裾が細い学生ズボン(ボンタン)を身に付けた連中が竹山君を取り囲みました。竹山君は、ボスらしき男と何やら話をしていたのですが、ポケットから百円玉数個を取り出し渡しました。その様子を、恐怖心で凍りついたまま見守るしかありません。
 こんなことが平然と行われてはいけない。解放された竹山君に警察に届けようと勧めたのですが、「たいした金額じゃない」「親に知られたくない」などと言い張るので、結局そのまま。
 竹山君は裕福な家庭に育ち、長身でかっこいいのですが、どうも目をつけられやすいようです。やはり竹山君と繁華街を歩いていたら、前から来たハイカラー(詰め襟が高い)学生服のグループと竹山君がぶつかりました。竹山君は、脇道に引っ張って行かれた。交番に駆け込むべきか、でも警察はいやだと言っていたしなぁ、などとオロオロしていたら、「こんなとこで、何やってんだ」と声がしました。見ると佐川君です。佐川君は、ツッパリ界に顔の利く同級生。事の次第を告げると、即座に分け入って「おまえらぁ、やめてやれよぉ」と竹山君を救出しました。
 こういった時々、ブルース・リーのようなカンフーの達人だったら、高倉健のようにケンカが強かったら、あるいは拳銃の一丁ももっていたら、と思わずにはいられませんでした。かっこよく竹山君を助けるということもありましたが、多勢に無勢、こちらが抵抗しないことをいいことに、傍若無人な振る舞いをすることが許せない。さらに“なめられている~偏差値の低い学校の奴らに”と思うと、我慢できないほどの憤りを感じました。
 かといって、非力な自分を省みて、空手道場に通うなどして心身を鍛えるようなハードなことはしません。ただひたすらツッパリたちを蹴散らす妄想を描いては、鬱憤をはらしていただけ。
 もうすぐ高校も卒業という頃、中田君と夜更けの歩道を歩いていました。地方都市のことですから、すでに車通りもあまりありません。車道を向こうから、バイクの一団が騒音を撒き散らしながら通り過ぎました。と思ったら、そいつらが戻ってきました。「てめぇ、オレたちにガンつけただろう」。確かにすれ違うときに、私はずっと睨みつけていたのです。ツッパリに対する憎悪が沸き上がっていました。
 「だったら何だって言うんだ。おまえら夜中にうるさいんだよ!」気がついたら、啖呵を切っていました。「なにぃ、この野郎」真夜中に暴走族と激しい罵倒の応酬。それ以前の情けない自分に嫌悪感をもっていたので、もう後ろに引けない。気持ち悪くて嘔吐したいのだけどつっかえて出てこなかったのが、ようやく吐き出せる、そんな気分です。「やる気かぁ」と凄まれたら「やってやろうじゃないか」と言い返す。不思議と恐さを感じません。勝てるとも思わないけれど、やるしかないと覚悟を決めました。
 そのとき、中田君が「すみません。ごめんなさい。ちょっと気が立っていたものですから、申し訳ありません」などと言いながら、私の手を引いて輪の中から連れ出してくれました。背後では、「ふざけんじゃねえぞ」「つぎはボコボコにするぞ」などと怒鳴り声が聞こえましたが、幸いなことに追ってくることはなかった。
 これが私の「ヒストリー・オブ・バーサスツッパリ」です。それ以来今日まで、夜中に新宿歌舞伎町を歩いていても、からまれたことはありません。
 「ヒストリー・オブ・バイオレンス」は、“暴力の歴史”と訳すのではありません。私は、historyの意味を“歴史”としか知らなかったので、そのイメージで映画を見ていました。けれど、知らなかったために、映画の展開を楽しめました。だから、ここにも本来の意味は書きません。
 さらに、ストーリーも紹介しません。先の展開を読みながら映画を見ていましたが、何度か意表を突かれました。それについてここに書いてしまうと、まだ見ていない人の楽しみを奪うことになりかねません。私が味わったと同じように、意外性を味わってほしいと思います。
 ひとつだけ、エピソードについてふれます。主人公トムは、疑惑の人となります。それまで愛し愛されていた妻エディからも、不審の目で見られてしまう。二人は激論となり、手も出ます。しかし、その状態から激しく体を重ねていく。ここでエディの愛は回復するかに思ったのですが、ことが終わると妻は逃げ去る。夫のことを愛したいと思いながら、不信感が拭えないと解釈しました。その葛藤により、ドラマに引き込まれます。トムがエディから距離を置かれるのは、暴力のためです(映画のタイトルに関わる部分だ)。
 例えば、ブルース・リーは悪の一味と闘い、鮮やかなカンフーで蹴散らします。高倉健は、ドスをもって殴り込み、バッタバッタと敵のやくざを切り倒します。そこで注目されるのは、ヒーローの強さです。やられた方の怪我の具合や死に様が大きくクローズアップされることは、あまりありません。
 私が、もし映画のヒーローを気取って、ツッパリや暴走族と一戦交えていたとしたら、大けがや死に至ることがあったかもしれません。私自身は強くもなんともなく、生身の人間なので、縫うような裂傷を負ったり、骨折したり、頭をひどくぶつけるようなこともあったかもしれない。そうなれば、ひどく痛いだろうし、後遺症が残るかもしれない。相手に大けがをさせることもあります。周囲からは、キレやすい危ない男と警戒されそうです。だから、興奮した私を連れ出してくれた中田君には、感謝しています。現実は、アクション映画などでは見られない場面で構成されている。この映画は、そういったところを問いかけています。
 この作品では、平穏で幸せな家族の混乱を描いています。家族愛とは、クレヨンしんちゃんのように「野原家、ファイヤー!」と一致団結して闘い、苦難の末に事件を解決して、やすらぎが戻って来たらお互いにひしと抱き合いながら涙を流すという描き方もある。それはそれで感動しますが、ほんのささいな動作が、家族の愛情を示す場合もあります。映画で見てください。

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Last updated  March 11, 2007 06:41:50 AM
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