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May 6, 2007
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カテゴリ:ホラー映画
 その頃は、「都市伝説」なんて言葉はなかったと思います。けれど、70年代の終わり頃、都市伝説の代表格「口裂け女」については、リアルタイムで体験しました(「都市伝説(urban legend)」は1980年代に入ってから、アメリカの民俗学者が提唱したとのことです)。
盆だったか、暮れだったか、田舎に帰省したら、友達が“口裂け女”の話をしてくれました。
 「オレの叔父さんの友達がねぇ、夕暮れに自転車で○×橋を通りかかったらねぇ、橋のたもとにマスクをした若い女が立っとったらしいわ。その女があんまりずっと自分のことを見とるもんでよぉ、「何か用事」と聞いたわけ。そしたらその女の人がさぁ「私、きれい?」って訊ねてくるがね。マスクしとるもんで、よぅ分からなんだけどさぁ、見えるところはなかなか美人だったもんでねぇ、「きれいやよ」と答えたんだがね。そしたら女が「…これでも…?」と言いながらマスクを外したんだで。そしたらその口は耳元まで大きく裂けとったもんでさぁ、男の人はびっくりこいてまったんだがね」
 “口裂け女”は、ときどきその橋のたもとに出没するという。その女には、美人お姉さんがいるとのこと。姉のようにきれいになりたくて整形手術をしたのだが失敗して、口が裂けてしまったという。その失敗がもとでおかしくなり、夕暮れ時に通りかかる人に「私、きれい?」と聞いて回っているそうだ。
 今になれば、多々ツッコミたくなる話ですが、そのときは信じてしまいました。なぜか、まず話をしてくれた友達が、人を担ぐような性格ではなかったから。それから、叔父さんの友達が実際に遭遇した、その場所は○×橋だったなど、身近な話として聞いたから、などが理由としてあげられます (友達の友達が芸能人と知り合いで、この前新宿でその芸能人とお茶した、なんて話はたいていウソなんだけれど) 。話を聞いた直後に、その場所まで行ってみました。“口裂け女”には会えませんでしたが。
 じつは、その前に、別の友達が夜のドライブに誘ってくれました。遅い時間に、大通りの街灯の下で佇む女性を見て「今夜も、またおるがね」と言います。「知ってる人?」の問いかけに、友達は「パン助だよ」と答えました。へぇ、街娼なんて、映画か小説の中だけの話かと思っていたら、わがふるさとにもいたのだ、と妙な感心をしてしまいました。そのことと、“口裂け女”がなんとなく重なります。初めて話を聞いた頃、“口裂け女”は、街娼と同じように、日常と非日常の境目くらいにいました。そのような存在だったから、信じるのもやぶさかではなかったのです。
 最初は局地的な話題だった“口裂け女”が、しばらくすると、日本全国に広がっていきました。そして、「きれいだよ」と答えないと鎌で切りつけてくる、高速で走り回って(100mを3秒で駆け抜ける)追いかけてくるなど、話がふくらんできたのです。それはないだろう。100mを3秒って、だれがストップウォッチをもっていたんだ?追っかけてきた白バイを振り切って逃げたって?そんな子供だましな話、ああ、子供が流布したのでしたね。
 日本中どこにでも “口裂け女”が出没し、噂に尾鰭がついて“口裂け女”が超自然的な様相を帯びてくるに従って、その存在の信憑性も、興味も薄れてきました。不思議な話は、シンプルな方がいいようです。「もしかしたら本当の話かもしれない」と思うから。
 映画「ルール」のシリーズは、原題を“Urban Legend”といいます。翻訳すると“都市伝説”です。
 1作目の「ルール(1998)」は、都市伝説には、社会のルール(マナー)を守らない者へのお仕置きが含まれているとか、都市伝説のルール(都市伝説の模倣)にそって殺人事件が起こるとかいった内容。“都市伝説”であったタイトルが、日本では「ルール」になったのは、このストーリーから来ています。
 第2作「ルール2」は、大学の映画学科の学生たちが、 “都市伝説”を題材とした作品を作る。その過程で、次々と人が殺されていく。この映画で、「ルール」という題名は、まったく関係なくなりました。「ルール2」だけを見たら、なんで「ルール」なのか、さっぱりわかりません。
 「ルール」と「ルール2」は、ホラー映画の範疇に入りますが、さらに細かく分類すると“サスペンス・ホラー”というらしい。“サスペンス・ホラー”とは、恐怖・怪奇の展開と同時に、犯人探しも含まれています。あくまでも人間の起こした事件として扱われるので、ホラーといえども、モンスターが出てきたり、超自然的なできごとが起こったりするのではありません。
 ところが3作目の「ルール 封印された都市伝説」では、ゴーストが登場してしまうのです。ついに超自然的な内容になってしまいました。明らかな方向転換です。
 これは、“口裂け女”の展開と似ていないだろうか。“口裂け女”の方は、キャラクターの恐さが広がっていくうちに強調されていって、ついに白バイを追い越す速さで走るようになってしまった。“口裂け女”が全国区になったのは、超自然的な力によるものかもしれません。 「ルール」の方は、1本の作品が多少なりとも売れたので、同じ題材で二匹目、三匹目の泥鰌をねらうが、“サスペンス・ホラー”ではネタがつきて超自然的な力(ゴースト)を借りるに至った。両方とも、とりあえず自然法則内のものとして出発し、“超自然的な力”でパワーアップを図ったわけです。
 私自身は、“サスペンス・ホラー”が好きではありません。例えば、横溝正史描くところの金田一耕助シリーズは、「八墓村の祟りじゃ~」などと言って、超自然的な怪奇ムードを盛り上げておきながら、犯人は人間だったとわかるとガックリきます(横溝正史の場合は、ジャンル的にはミステリでしょうが)。
 フィクションの世界では、フィクションらしく、モンスターだの超常現象だのによる“ホラー”を見せてほしいと思う私です。では、「ルール」シリーズの方向転換は嬉しいと感じたか?超自然的な世界は、ともするとなんでもありの世界になりがちです。ご都合主義を避けるためには、不思議な出来事についての説得力なり、作品的なおもしろさなりが必要です。困ったときに、超自然的な方向へ逃げるような安易な作品は、“ルール”違反です。
 それにしても、“口裂け女”の方は、様々な超自然的な“目撃情報”により-それがバカバカしいものであっても-いっそう印象が強くなって21世紀にも語り継がれ、まさに“伝説”として生き残っていますね。回を追うごとに超自然的な存在になっていった“ジェイソン「13日の金曜日シリーズ(1980~2003)」”も、同じ時代を生きていますね。

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Last updated  May 6, 2007 06:27:07 AM
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