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December 16, 2007
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カテゴリ:ホラー映画
なぜ水野美紀がこのような映画に出演したのか。だって「口裂け女」ですよ、いかにもキワモノ映画的ではないですか。しかも、主役ではありません。“口裂け女=モンスター”の役なのです。女優には、イメージや、あるいは格というものがあるでしょう。端から見ると、水野美紀という女優の美人度、あるいはステータスからすれば、異形のモンスター役をやる必然性が感じられません。よほど作品的に素晴らしく、役としても深いものがあるのか。それとも高額のギャラだったのか、なんて理由を思い浮かべてしまうのですが。

「口裂け女(2007)」

監督:白石晃士
出演:京子:佐藤江梨子
松崎:加藤晴彦
タエコ:水野美紀

 この映画の出演者に水野美紀の名前を見たとき、主演ではなかったので、何か重要な役での特別出演のような形かと思いました。まさか“口裂け女”役だとは思いませんでした。
 例えば、「ハロウィン(1978)」には、主演女優のジェイミー・リー・カーティスがいて、殺人鬼ブギーマン=マイケル・マイヤースがいます。ジェイミーは、不死身のブギーマンにつけ狙われ、絶叫しながら逃げ回って、見る者を恐怖に誘う。これを「口裂け女」にあてはめると、ジェイミーが佐藤江梨子であり、ブギーマンが水野美紀なのです。しかも“口裂け女”ですから、口の端がギーッと両側に裂けてしまっているのですよ。常識的に考えれば、主演級の美人スター女優水野美紀がやる役ではないですよね。
 
 水野美紀のイメージといえば、「踊る大捜査線(1997)」の柏木雪乃であり、「ガメラ2 レギオン襲来(1996)」の穂波碧役が印象的です。柏木雪乃は、殺人事件の被害者の娘で、ショックのあまり口がきけなくなるというナイーブな役。穂波碧は、札幌市青少年科学館の学芸員です。落下したはずの隕石の本体が見あたらないという怪現象に「隕石が自力で移動したのではないか」と冷静、客観的な見解を述べます。年頃なのに男っ気はない。両親と同居していて、うるさい父親の監視下でも、自室の本棚にウイスキーの小瓶を隠しもっていたりする茶目っ気も披露します。
 私としては、「踊る大捜査線」では、意志強固な恩田すみれ(深津絵里)よりもお嬢さん系のおっとりした柏木雪乃派です。平成ガメラシリーズでも、直球勝負の長峰真弓(中山忍)もいいけれど、ソフトな穂波碧が話しやすい感じがします。こうした柏木雪乃や穂波碧を演じた水野美紀です。口裂け女とは、どうしてもつながりません。
 
 水野美紀クラスになると、当然出演依頼がたくさん来て、その中からチョイスすることになるのだと思います。その場合、脚本を読んで、映画の内容や役柄が魅力的なら出演を決めるのでしょう。
 では、「口裂け女」は、映画的に魅力があるのでしょうか。
この映画の監督は白石晃士です。白石監督はホラー系(オンリー?)の監督です。以前「ノロイ(2005)」を見たことがあります。ドキュメンタリー形式をとっていますが、じつに充実した恐怖感を味わえます。「口裂け女」は同監督の映画ということで、期待しました。けれども、残念ながら「ノロイ」ほどではありませんでした。
 内容的には、母親の子供への虐待を描き、それは特定の人たちだけでなく、誰にも起こりえるものなのだという話になっています。が、だから何?という感じ。それから、ちょっと不自然な展開が気になって、映画に浸ることが難しいのです。例えば、主人公たちが、死んだ人を放っておいて、車で立ち去ってしまう場面があります。口裂け女が出没する警戒体制の中で、夜「あそこが警察だからね」と子供だけを歩かせる場面もありました。
 極め付けは、なぜ口裂け女の口が裂けたかというエピソード。暴力を振るう母親(これが水野美紀)から逃れようとして子供が手に持った包丁を振り回したら、母親の口にあたって裂けてしまいました。これを見て、子供の頃読んだホラーマンガを思い出しました。殺人を犯した女が、事故で両腕を失う。そうしたら、殺された人物の腕が墓場の地中から抜け出し飛んできて、無くした腕の替わりにくっついてしまった。そして、持ち主の意に反して動くのです。このマンガに匹敵するくらいのとってつけた理由です。
 さらに、この映画はどんな年齢層を観客と考えていたのでしょうか。「口裂け女」といえば、劇中にも出てきますが、子供が恐がる都市伝説です。学校の怪談のように低い年齢を対象にした恐怖映画かと思いましたが、口裂け女によって子供が虐待され、惨殺されてしまいます。さらに殺された子供が駐車場に放り捨てられるシーンや殺された子供が白骨化している描写などがあり、とても小学生などには見せられません (この映画はPG-12指定。12歳未満(小学生以下)の鑑賞には成人保護者の同伴が適当)。ホラー映画でもそうでなくても、子供を残虐な行為の犠牲者として見せるということは、あまり見たことがありません。
 ますます、あの水野美紀がなぜ出演したのか、との疑問が深まります。

 しかし、なんと水野美紀は、この“口裂け女”を自らやりたいと名乗り出たのでした。「水野は当初は別の役で出演交渉されたが、口裂け女役に立候補して脚本が書き直された。(livedoorニュース)」書き直される前の母親役がどうだったのか分かりませんが、従来の水野美紀のイメージでキャスティングされたものだったのでしょう(多分この母親だったのだな、と推測できる役は完成した映画に残っています)。
 「水野は当初、母親役で出演をオファーされたが「想像したら面白い。口裂け女をやってみたい」と逆に申し出て、役をゲットした。「監督に『暴力の権化』といわれ、誰しも心の奥底に少しだけ持つ暗い欲望や悪の部分を取り出し純度100%で演じた。楽しい体験でした」と撮影を振り返り、「われながら怖いです。誰だかわからない程、特殊メークで怖い私をみて」とPRしている。(サンケイスポーツニュース)」
 確かに、水野美紀の演じる“口裂け女”は恐かった。昼日中、走り去る子供を追いかけて、佐藤江梨子が団地を回り込む。突然、そこにざんばら髪、やけに長い鋏を持った“口裂け女”が立っている。瞬間ゾォーっと怖気立ちました。まだ明るいうちであるにもかかわらず。そういった驚きや刺激には慣れるものですが、二度、三度と“口裂け女”登場してもやっぱり見るだけで恐い!

 水野美紀は、世間体や従来からある価値観、自己の固定的なイメージ(美人!)で役を選ぶ人ではなかったのです。多くの美人女優は、自分から、美しい顔に傷をつけてまで、残虐なモンスターの役などをやりません。でも、水野美紀は、新しい役柄へ挑戦する人、周囲の評価に惑わされず、自分に正直に、自分のやりたいことを追求し、実現できる人だったのです。

 私たちは、周りの視線を気にして、いい人だと思われたくて行動することがありがちです。けれど、自分自身は、他人のために存在しているのではありません。自分と関係する人々と良好なコミュニケーションをとることは大切です。でも、他人のリズムにはまらず、自分のことは自分で決めるようにしなければいけません。自分自身の生き方をするために。   
 水野美紀さんから、貴重なことを学びました。
  
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Last updated  February 24, 2008 08:12:56 AM
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