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テーマ:最近観た映画。(40135)
カテゴリ:ドラマ
これまでにもプロレスを舞台にした映画を見てきました。代表的なところでは「パラダイス・アレー(1978)」「カリフォルニア・ドールズ(1981)」など。これらはどれもプロレスを真剣勝負として扱っていました。最後は勝負論のプロレスだった。ストーリーの概要は、負け犬人生を送っていたプロレスラーがチャンスを掴み、一発大勝負に出て強敵に勝利するというもの。
有り体にいえばロッキーのプロレス版です。けれどもプロレスはボクシングより胡散臭く見られるもの。ボクシングのチャンピオンになることは世間的に価値を認められたことですが、プロレスではそこまでの評価は得られません。でも、レスラーたちが最後に自己実現を果たすところにとても感動しました。 ここでちょっと言いたことがあります。この2本はDVDが販売されていないのです。「パラダイス・アレー」はシルベスター・スタローンの初監督作品ですし、「カリフォルニア・ドールズ」は名匠ロバート・アルドリッチの遺作です。「カリフォルニア・ドールズ」はさすがアルドリッチという素晴らしい内容です。また「パラダイス・アレー」は当時の有名レスラーが大勢出ていてマニアには嬉しい映画です。 今後ブルーレイとして商品化されることを望みます。 ちょっと胡散臭く見られてきたプロレスですが、「パラダイス・アレー」や「カリフォルニア・ドールズ」では、格闘技の試合として扱われていました。 ところが、今回の「レスラー」では、これまでのプロレス映画がタブーとしてきた場面をあからさまに見せてしまいます。試合の打ち合わせをする場面が出てきます。どういう展開で、どんな決め技でどっちが勝つかという打ち合わせです。あるいはカミソリをコスチュームに仕込み、試合途中に自らの額を切って流血を演出する場面もあります。 30年前にくらべれば、プロレス界の事情が変わってしまったことを思わずにはいられません。 現在世界最大のプロレス団体といわれるWWEは、2000年のニューヨーク株式への上場に際して「プロレスには台本がある」とカミングアウトしました。つまり、プロレスは勝ち負けを競う試合を行っているのではなく、ショーなのだと明かしたのです。 その前触れだったのでしょうか、プロレスのドキュメンタリー映画「ビヨンド・ザ・マット(1999)」では、ミック・フォーリーとザ・ロックがWWEの大会で、試合の打ち合わせをしている場面が紹介されました。 日本でこの映画が公開されたのは2001年のこと。レイトショーとして9時過ぎに1回だけの上映でした。僕は上映時間に合わせて遅くまで仕事をしてから、映画館に駆け付けました。そして、客席でふっと眠りに落ちてしまったのです。肝心のミックとロックの打ち合わせ場面を見逃してしまいました。映画が終わって、「打ち合わせ場面なんてなかったじゃないか」なんてボケをかました始末です。 さらに、同じくドキュメンタリー映画「レスリング・ウィズ・シャドウズ(1998)」でも、WWE(当時はWWF)はプロレス業界の秘密を公開していました。 そして、日本でも新日本プロレスのレフェリー、ミスター高橋が2001年に「流血の魔術 最強の演技~すべてのプロレスはショーである」という暴露本を出版しました。 以上のようなことから、もうプロレスを映画にするときには、他のスポーツと同じような試合が行われているという扱いではなく、演出があることが前提となったのでしょう。 それでも、ミッキー・ローク演じる初老の「レスラー」ランディは、闘いに挑みます。 ランディは、かつては大向こうをうならせるスターレスラーだった。かつてのレスラー仲間には、プロレスで稼いだ金を元手に事業を興して引退後の生活をエンジョイしている者もいる。しかし、ランディは、老骨に鞭打ちレスラーとして生きている。メジャーでは通用しなくても、ドサ回りだったら生きる伝説として昔の名前に人が集まってきます。 このランディ・ザ・ラムは、ジェイク・ザ・スネーク・ロバーツをモデルにしているのではないか。「ビヨンド・ザ・マット」では、WWFのスターレスラーだったジェイク・ロバーツが、その後地方回りをしながらプロレスを続けている様子を紹介していました。 プロレスがショーだといっても、互いに危険なワザをかけあい、リング下へ転落し、凶器攻撃やデスマッチもあるわけです。全編、盛りをすぎても肉体を酷使するランディの荒い息づかいが聞こえてきます。 レスラーとして生きていくためには、ジムで筋肉(美)を維持するトレーニングを行い、髪を染め、日焼けサロンに通うなど、常に商品である肉体のケアを行っている。この点は、齢を重ねてもプロであろうとするランディの意地が見えます。 しかし、過酷な試合や会場への移動、ステロイドなどの薬品を使用しているためもあって、ランディは心臓発作に襲われてしまいました。バイパス手術をした身ではもうプロレスを続けることはできません。 ランディはこれまでスターレスラーとしてやりたい放題やってきた身です。普通の生活に戻ろうと思っても、今まで放っておいた娘からは愛想を尽かされ、いい雰囲気になりかけた女性からも距離を置かれ、スーパーの総菜売り場も勤まらない。 すると、もうランディの居場所はリングにしかありません。ランディはもう一度リングに上がる決心をします。 蓄えがないので、毛染めも日焼けもトレーニングも全部自分でやります。それらを疎かにしないランディはやはりプロなのです。 そうしてランディは復帰戦に向かいます。そこには、たとえ試合内容の打ち合わせをして前もって勝敗が決まっているプロレスでも、真剣勝負に向かうのと同じ緊張感がありました。 やはりプロレスには闘いとドラマがあるのです。 プロレスを引退して堅実に生きていくのは賢いかもしれない。しかし、プロレスラーはスーパーヒーローなのです。スーパーヒーローは、普通の人間に戻ってはいけない。最後までプロレスラーとして生き抜いたランディ・ザ・ラムこそスーパーヒーローだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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