マリインスキーの現代バレエ
マリインスキー劇場では、『白鳥の湖』や『くるみ割り人形』のような古典的なバレエ作品のほかに、現代バレエも上演されます。これらは大抵、古典的なバレエよりもチケットがお安い。上演日直前に半額にダンピングされることもしばしば。というのはアブストラクト・バレエ(抽象バレエ)なので人によっては全く気に食わないから、のようです。私の観た中で、その最たる作品はウィリアム・フォーサイスの『Approximate Sonate』。いつも3幕構成の2幕目に上演されますが、終わると次の休憩の間に観客の5%くらいは帰ります。私の隣席にいたばあちゃんも、幕が下りてきた瞬間に「あぁ幸せ…」と呟き、3幕目にはもういませんでした。たしかにこれ、つらい。私、シロウトにしては我慢強い観客だと思うんですが、(でも『ジゼル』飽きるからな。我慢強くないかも)紫のランニングに青のパンツ、もしくは蛍光黄色のスウェットという衣裳の配色、舞台のサイズに対して半端に小さな三角の旗、始終上がり下がりする白いホリゾント幕などが、なんかこう、人をイリテイトする意味不明さなのです。でもフォーサイスには、おもしろい作品もたくさんあります。『Steptext』は客席の電気がついたまま、突然幕が開くと一切の音楽なしで、たった一人の男性ダンサーが一箇所に立ったまま同じ振りを繰り返す、という、大変難しいスタートを切ります。日本だと「バレエだし劇場だし」とお客さんはお行儀よいですが、ロシア人は集中していない限り、失笑したり喋ったり容赦ありませんから、相当の力と勇気がないとこれは踊れない気がします。そのとき踊っていたのは石原伸晃似のミハイル・ロブーヒン。ああ、やっぱり彼はいいダンサーなのねぇ…ドーソンの『レヴェランス』という作品にもノブテル・ロブーヒンはご出演。現代バレエのときは若手ダンサーが動員されるので、彼の登場率も高いようです。6人のダンサーが夜の海のような逆光の中を舞台奥にゆっくり歩いて去っていく終幕では、彼がいちばん切なくてきれいだわ…とめちゃめちゃ贔屓目。現代バレエの日に常に最終幕を飾るのはフォーサイスの『In the Middle, Somewhat Elevated』。これ、テクノサウンドに乗って深緑のレオタード来たダンサーたちが様々なヴァリエーションで踊るんですが、かっこいいです。(あと、テクノで30分以上続く曲作ったのもすごいと思う。)2幕目の『Approximate Sonate』で帰るとこれは観られないので注意しましょう。ここでもノブテル、いいですよ!これらの作品、日本に帰ったらよほどのことがないと観られないんでしょうね…残念無念。いまのうち。