カフェ感

大山社長は、社員みんなの心に応えて、知的障害も持つ二人の少女を採用した。

しかし、大山社長は、その時から一つの疑問を持ち始めた。

どう考えても、毎日、会社で働くよりも施設でゆっくり、のんびり暮らしたほうが幸せなの

ではないかと思えたからだ。

と言うのも、仕事ですからミスをした時には怒ります。あまりに言うことを聞いてくれない

ときなど、”施設に帰すよ”と言うこともあります。

すると彼女らは泣きながら、すごくいやがるのです。

大山は、障害者の気持ちが、どうしてもわからなかったそうです。

あるとき、大山は、ある法事の席で一緒になった禅寺のお坊さんに、

その疑問を尋ねてみたそうです。

するとお坊さんは、

”そんなことあたりまえでしょう。”

”幸福とは、

　人に愛されること

　人にほめられられること

　人の役に立つこと

　人に必要とされることなんですよ。


　そのうちの

　人にほめられること、人の役に立つこと、人に必要とされることは、

　施設では得られないでしょ。

　この三つの幸福は、働くことによって得られるものなのです。”

　だから、どんな障害者の方でも、働きたいという気持ちはあるんですよ。

　施設の中でのんぶり楽しく、テレビを見るのだけが幸せではないんです。

　真のしあわせは働くことなんです。”

と教えてくれたそうです。

大山社長は、目からウロコが落ちる思いだったそうだ。

大山は言う。

”このことは、普通に働いている多くの人たちも忘れていることかもしれない。

　私は、その大事なことを障害者の方によって教えられたのです。”

そして、同じ時期、上野動物園、飼育係の西山さんの話が

さらに大山社長に衝撃を与えたと言う。

その話とは、

”最近の動物園の動物は、自分の子供を育てないのです。どうしてだろうと考えてみたの

　ですが、どうやらオリの中でエサを与えられていると、子供を育てるという本能を

　見失ってしまうようです。”

つまり、それは、”なんのために生きているのか”を見失っているのと同じことでは

ないか。大山はその時、強くそう感じた。

”人間にとって”生きる”とは、必要とされて働き、それによって自分で稼いで

　自立することなんだ”と気づいたそうだ。

”それなら、その場を提供することこそ、会社に出来ることなのではないか。

　企業の存在価値であり社会的使命なのではないか。”と大山は確信したのだった。

今、大山社長の会社の従業員は約５０名。そのうち、

およそ七割の方が知的障害を持った方で占められている。

大山社長の会社で作る、ダストレスチョーク（粉を飛ばさないチョーク）は非常に優れており

マーケットの、３０％ものシェアを持っている。

そして、新商品の開発にも積極的だ。

大山社長のすごいところは、知的障害者を慈善事業として雇用しているのではなく、

ビジネスとして、戦力として、雇用している点にある。

健常者すら指導できていない、多くの会社や現場がある中で、

彼の会社は、知的障害者を戦力化している。


うえには、うえがある。