カフェ感

わたしは、戦国時代の武将より、江戸時代の武士に親しみを持つ。



理由は、


様々な制約の中で、工夫をして、なんとか武士道を保とうとしていた、



その痩せ我慢（やせがまん）の精神に美を感じるからだ。





土井利勝（どい・としかつ）という武士をご存じだろうか。




徳川幕府初期の頃、



幕府を支えた老中（ろうじゅう・幕府重役）のひとりだった。



一説には、



徳川家康の隠し子ではないかと言われていた人物でもあります。



家康にとてもよく似ており、



よく間違えられていたそうです。



二代将軍、徳川秀忠の補佐役として活躍し、



秀忠の絶大な信頼を得ていた武士でもあります。




ちょうど現在のNHK大河ドラマのストーリーの時期と、


重なる頃に活躍した人物でもあります。


もっとも、


今回の大河ドラマでは、


徳川家康は悪役ですので、


話に登場してくることはないでしょう。。。





土井利勝は、



二代将軍、徳川秀忠が亡くなるとき、



”息子、家光（いえみつ）を私同様よろしく頼む。”と遺言された男でもあります。




土井利勝は人間味あふれるリーダーでした。



とくに　”間の取り方”　”間の活用”のうまいリーダーでした。




なんでも、すぐに結論を出すのではなく、


”なぜ、こうなるのか”　”なぜ、こうしなければならないのか”ということを



当事者にじっくり考えさせ、


仕事を通して、当事者に考える力を養わせ、成長を促していった人物です。





土井利勝は言う。。。



”よく世間で、”間抜け”という言葉がある。



　のんびりしている人間や、



　動作が、ゆっくりな人間のことをバカにして言う言葉のように言われているが、




　わたしは、その考え方は間違っていると思う。



　いまの人間は、せかせかしすぎていて、”間（ま）”がなさすぎると思う。



　今の人間こそ、


　”間”が無い人間。”、つまり”間抜け”だと、わたしは思う。








たしかに。。。



わたしのまわりにも　”スピード”　”スピード”と連呼し、


アメリカのハーバードシステムを”丸飲み”して深く考えずに自社に取り入れ、


なんでも数字や形にあらわす、せかせかしたリーダーがいた。。。いた。



最近、どうも元気がないような気がする。




ちょうど車のスピードと同じで、


どんどんスピードを上げてゆくと、


視野が狭くなってゆく現象と似ている。








土井利勝の”仕事の仕方”を少し紹介したい。


二代将軍、徳川秀忠に仕えていた頃の話です。




秀忠は、煙草（たばこ）が大嫌いな将軍でした。



秀忠は、土井利勝にきつく命じます。



”江戸城内では、絶対にタバコは吸わせてはならない！”





土井利勝

”かしこまりました。”





土井利勝は、


”内心思った。


　タバコ好きの武士は、単純に”上から目線”で”煙草をやめろ”と言ったところで、


　隠れてタバコを吸うだろう。かえって火事になって危険だ。。。”





案の定（あんのじょう）



タバコ好きの武士たちは、ある部屋を利用して隠れて煙草を吸っていた。



大目付（おおめつけ・監査役）が、発見し、すぐに徳川秀忠に報告した。



秀忠は、取り締まりの責任者、土井利勝を呼んだ。



”わたしが、あ。れ。だ。け。きびしく命じたにもかかわらず、


　まだ江戸城内でタバコを吸っているものがおる！


　どうなっているのか！バカ者！徹底的に取り締まれ！”




土井利勝、


”わかりました。”




といって。。。



利勝は、隠れて、タバコを吸っている武士たちの部屋へ行った。




そして、



いきなり、タバコ部屋に、老中の土井利勝は入っていった。



あわてて武士たちはタバコの火を消して、



部屋に漂っている煙（けむり）を手で追った。




部屋に沈黙が。。。




すると、


土井利勝は、別に怒鳴りつけるわけでもなく。。。



ニコッと笑い。



”うまいか？　”と聞いた。




武士たちは、なにも答えることができなかった。



武士たちは弱った。。。


なにも言わずに、うつむいている武士たちに向って利勝は、



”俺にも一本くれ　”といった。



タバコを吸っていた武士たちは驚いて顔を見合わせた。



武士たちは思った。


”さては、土井様は、


　われわれがタバコを持っている証拠をつかもうとしているのではないか。”



武士たちが、もじもじしていると、



土井利勝は笑顔で、


”どうした？　はやく俺にも一服（いっぷく）くれ　”



仕方なく一人の武士が、



タバコに火をつけ土井利勝に差し出した。



土井利勝は、


思いっきり胸に吸い込み、顔を上げて煙をはきだすと、



”あぁ　うまい”といって、火を消すと、


再びタバコを武士に返し、



”さあ、仕事に戻ろう。



　老中などと言う職は、雑用が多くてかなわん。”




そう笑って、利勝は去っていった。。。




タバコを吸っていた武士たちは、



”　。。。。。。。。。。。　”




”土井様は、いったい我々のところへ　何しにおみえになったのだろうか。。。”




”どうせ、あんなにうまいことを言っても、あとで将軍様に報告するに違いない。”



”きっと、きびしいお咎め（おとがめ）があるに違いない。どうしよう。。。”





しかし、



不思議と、


その後、タバコを吸っていた武士たちに罰が下されることはなかった。。。




しばらくして、


タバコを吸っていた武士たちは、


ある噂（うわさ）を耳にした。。。



”なんと老中の土井様が、こともあろうに、隠れてタバコを吸っていて、


　将軍様から、こっぴどく叱責されたそうだ。”という話だった。




タバコを吸っていた武士たちは。。。



”　？？？？？。。。　”




”おそらく土井様は、われわれの罪をご自身でかぶったのではないか？　”



”そうに違いない。”





武士たちの想像通りだった。。。



土井利勝は、隠れてタバコを吸っていたものたちを、将軍に報告することはなかった。






タバコを吸っていた武士たちは、


この時、はじめて土井利勝の心（こころ）が分かった。



”土井様は、われわれに自分のやっていることを自分で考えろとお命じになったのだ。”



”われわれが反省するまでは、将軍様のお怒りを自分で食い止めようとなさったのだ。”



”俺たちは、なんということをしてしまったんだ。。。”




武士たちは、そろって土井利勝のところへ行った。



みんな手をついて深くお辞儀をし、


”土井様、まことに申し訳ございませんでした。


　これからは、決してタバコを隠れて吸う事は致しません。”と誓った。




土井利勝は笑って手を振り、



”そんな恐縮することはない。わかればよいのだ。”




土井利勝は、その後、将軍、秀忠に提案をした。



”将軍、タバコ好きの人間に、タバコを吸うなというのは無理です。


　どこか江戸城内に喫煙場所をつくって、


　正式に、ある時間帯はタバコをお認めになってはいかがでしょうか。”





じつは、


将軍、秀忠も、今回、土井利勝が行った件を耳にしていたのだった。




秀忠は素直に。。。



　”そうすることにしよう。”　といった。





土井利勝は、”間の活用”によって、



将軍と、部下を、　ともに反省させたのだった。。。