清貧~信じられるものしか私は売れない③
上ずってうまく人前で話せない司会者の彼女が最初に紹介をした人物は北海道地区でその製品のそこそこの売上を上げているらしいなんとかマネージャーだった。会社概要を話すらしいのだが、可笑しかったのは、司会者の彼女がすぐに彼女にマイクを渡さずに、これから話をするなんとかマネージャーがいかに頑張っていて、苦労をしている人なのかを相変わらずつっかかりながら必死に説明をしている点だった。聞いていて、同情を誘えなくもなかったが、聞き苦しかったし、時間ももったいなかったので、私はうんざりしながらその話を聞いていた。なんとかマネージャーはどんな話をしてくれるのかと思えばこれまた何が言いたいのかさっぱりわからなかった。まず、会社の名前を3回くらい連呼し、社長の名前をこれまた3回くらい連呼した。一度宙を仰いだ彼女は、業績について話だしたのだが、ここから声が震えだした。震えながらスピーチスピードを3倍速にフル回転し、たくさんの新聞の切り抜きコピーを前に翳しては、北海道で1・2を争う売上と資本金を手に入れ時代のニーズを背負って飛ぶ鳥も落とす勢いの企業に成長しつつあることを必死でアピールし始めた。主語もなければ述語もない思いつきのスピーチが作り物の部屋に虚しく響く。新聞の切り抜きが、何処の新聞社の何時付けの新聞なのかの説明も無く、その数字の単位が平均値と比較して何パーセントくらい上回っているのかもわからない。意地悪な言い方かもしれないけれど、説明の中にこちらが納得できる裏づけがまるでないのだ。「これは本当にもの凄いことで…」「驚異的にすごくて…」「びっくりするくらいの出来事で…」比喩が全て曖昧で、感情ばかりが滑って行く。冷たい月の表面を。悪いけど、ただのおばさんなのだ。セミナーの講師をするための勉強をしていないから、話の組み立ても、しゃべり方もあまりにも稚拙なために、話に引き込まれてゆく魅力がないのだ。私はまた生あくびをひとつして時計を見た。ママはうんうんうなづいている。それにしてもどうにかしてくれないかな?この北海道弁。と私は心の中でその日300回目くらいの溜息をついて時が過ぎるのを待った。