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カテゴリ:音楽
この週末、年賀状問題を片付けるべくパソコンに向かいました。まずは裏面のデザインを行い、これが大体できたところで、いざハガキに宛名を印刷するためにいつものソフトウェアを起動しようとしたところ、なんだか様子が変。それもそのはず、6月にパソコンをM1チップ搭載のiMacに買い替えており、64bitクリーンでないソフトは動作しなくなっています。件のソフトもご臨終だったことをこの期に及んで気づくハメに。結局仕舞い込んだ古いパソコンにもう一度登場を願うという、何とも間抜けな事態になってしいました。
ところで「忙中閑あり」、溜まっていたTVの録画番組を眺めていたところ、先週放映されたあるバラエティ番組で「ストラディヴァリウスはなぜ高価なのか」というお題が登場。その答えは「300年前に作られた楽器の性能を今でも再現できないから」というものでした。要するに単なる「希少価値」、あるいは「骨董的価値」ではない、というわけです。番組では、堀酉基(ほり ゆうき)さんというヴァイオリン職人が登場し、その高い性能の由来について解説していましたが、その中でも亭主の耳目を大いに惹きつけたのが素材として使われた木材についての話です。 堀さんは、ストラディヴァリウスの木目がよく積んでいる(年輪が稠密に入っている)ことに注目し、この楽器が作られた当時のヨーロッパが小氷河期(小氷期)と呼ばれる寒冷な時代だったために、夏場の木の成長が抑えられたことが原因だろうと推測しています。 バロック期のヨーロッパが小氷期に当たっていた、という話は亭主にも聞き覚えがありましたが、それがもたらした影響については「当時の英国でテムズ川が凍結した」とか、アルプスの氷河が発達した、といった気象に関わるエピソードが中心でした。なので、小氷期の寒さがあの名器につながったという話、どこか「風が吹けば桶屋が儲かる」的な響きはあるものの、大いに興味が湧きます。 よく知られているように、木の年輪は夏場と冬場で成長速度が異なることによって生じます。当然のことながら、成長が遅い冬場の方が木の密度が高く(冬目)、よく育つ夏場はグッと密度が低下します(夏目)。ストラディヴァリウスに使われた木材は季節による成長差が小さく、全体として目が積んで高密度になっているというわけです。 この高密度な木材のおかげで、ストラドのヴァイオリン表板の厚みは2ミリと薄く(通常は3ミリぐらい取らないと弦の張力に耐えられない)、楽器全体も軽くなっているとか。あの高音部の輝かしい音色の秘密の一端もここにあることが推測されます。 そこで、小氷期の寒冷気候がもたらしたであろう影響についてネットで調べていたところ、とある文献がヒット(岡山大学、永田諒一、2008)。それによると、小氷期を1550~1800年頃とした場合、その期間の平均気温の低下はおよそ1℃となるそうで、これによって植物の生育可能期間は3-4週間短くなり、作物の生育可能高度は500フィート(約170m)低くなるとのこと。真夏でさえ日本よりはずっと涼しいヨーロッパでは、それなりの影響がありそうな気もしまが、平均気温で1℃の変化がどの程度のインパクトがあるのか、すぐはピンときません。 そのような亭主のギモンを知ってか、文献では具体例として1993年に起きた日本の冷夏を挙げます。その夏の平均気温は、北日本で約2℃、西日本でも1℃近く平年より低かったそうで、米作の不調により緊急に大量の米を諸外国から輸入することになりました(亭主も当時出回ったタイ米を物珍しがってよく料理した覚えがあります)。そのような輸送手段を欠いていた近代以前なら、大飢饉の年として歴史に記されたであろうと語り、これがが100年以上続いた場合のインパクトを想像させます。 一方、1000~1400年ごろは「中世の温暖期」と呼ばれる温暖な時期だったことも知られています。この頃は、ちょうどヨーロッパ各地に最初の大学が設立されるなど文化的に豊かな時代で、「12世紀ルネサンス」とも呼ばれていました。引用した図にあるように、同時期に北欧のヴァイキング達がグリーンランドに植民し、大いに繁栄していたことが知られています。グリーンランドの話はジャレド・ダイアモンドさんの「文明崩壊」でも取り上げられ、1400年ごろまでにこの植民地が消滅してしまった理由として「自然破壊」(森の木を伐採し尽くしてしまった)を挙げていますが、この図を見ると平均気温の低下もある程度影響を与えているのではないか、と妄想が膨らみます。 とはいうものの、文献では亭主の妄想に対しても以下のように直ちに釘を刺してきます。曰く、「巷間には、小氷期の寒い気候が、農業生産力を低下させ、そのためにフランス革命が起こったという類の説明も出回っているようだが、それは様々かつ曖昧な状況証拠の符合に基づく、ほとんど証明不可能な仮説でしかない」。 それにしても長期的な気候変動(=システミック・リスク)と社会情勢・文化活動との相関、今日にも繋がっている大いに魅力的な仮説ではあります。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
December 27, 2021 09:06:47 PM
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