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カテゴリ:音楽
もはや旧聞に属しますが、反田氏は昨年10月にショパン国際ピアノコンクールで2位入賞を果たし、この年末年始も何かと引っ張りだこのようです。先週末の元日の夜も、いつものようにウィーン・フィルのニューイヤーコンサートの中継番組にチャンネルを合わせたところ、なんと彼がゲストの一人として登場しているのにびっくり。
そのような正月気分も冷めやらぬ1月4日のA新聞オピニオン欄で、今度はまるまる1ページを割いて反田氏のインタビュー記事が掲載されているのを目にし、じっくり読ませて頂きました。 このところ反田氏が折ある毎に語っているように、彼がこのコンクールに出た目的(理由)は、そこで優勝することそのものではなく、それによって得られる知名度を利用し、ピアニスト養成のための学校を作りたいから、ということでした。 ではなぜ学校を作るのか?それはどのような学校なのか? 実はこれこそがコンクールに出た理由の一番の核心なのですが、彼はこのロングインタビューでそのギモンにズバリ答えてくれています。亭主が常日頃思っいることとも重なる部分が多々ありますので、以下に少し端折りながらご紹介してみましょう。 まず、音楽の学校を作りたい理由を聞かれた反田さん、その根底にあるのは日本のいまの音楽教育への思い、疑問のようなものかもしれない、と語ります。彼は「子どもたちがこれ以上音楽を学ばなくなってしまったらどうするの」と心配し、そんな状況をこれまでつくってきた大人への不満、クラシック音楽界に対する焦燥感を吐露します。 そのような不満の具体的な中身を問われ、彼はロシアやポーランドに留学中に目にした「日本よりもずっと楽しそうに音楽教育をしている海外の状況」や、自らの幼少時の音楽教育での体験を引き合いに出し、それに比べて「日本ってタテ社会だし、『周りに歩幅を合わせようぜ』という空気がありますよね。『この先生に習っているから、それはダメ』と言う人がいたり、多数派の意見が勝ってしまったりする。でも、音楽において、そういうのは必要なのでしょうか」と「日本の音楽教育の体質」に疑問を呈します。 さらに曰く、「20代初め、まだデビューしたての頃に見た夢があります。僕はピアノの前に座っていて、子どもたちが周りにいる。『先生はなぜそうやって弾くの?』『私はこういう弾き方だと思うんだけど』と子どもたちと僕が一緒に議論している。目覚めた後、これが僕のしたいことなのでは、と思いました。でも、日本の音楽界は腰が重い。現状を少し変えるだけでもけっこう難しいんです」 これらを亭主流に総括すれば、日本のクラシック音楽界を「お手本主義(例えば「音符に忠実に!」というスローガン)」が支配し、権威主義的教育(「〇〇先生の弟子」といった経歴が重きをなす)がそれを支える体制となっていること、さらには興行面においてもこれらに由来すると思われる翼賛的な体制が支配していることを批判していると言えるでしょう。いわばクラシック音楽界の構造問題に対する批判です。 このような言説はクラシック音楽業界全体を敵に回すような感じで、業界内部にいるという自覚があれば、並み大抵の覚悟ではできない発言だと思われます。(本来ならこれは音楽ジャーナリズムが行うべき仕事ですが、日本の音楽ジャーナリズムはどうやら翼賛的な体制に完全に組み込まれているようで、これまでのところほとんど聞こえてきません。) とはいえ、本当にすごいのは彼の行動力。単に批判しただけでは業界内で干されて終わりですが、既にだいぶ前からそうならないよう入念に考えたであろう取り組みを実行しています。記事によれば、彼は「社会勉強をしたい」という口実の下、18年に音楽事務所から独立して自身のレーベルを立ち上げています。さらに、このコロナ禍という音楽業界全体にとってのピンチでは、いち早く有料ストリーミング配信を始めたりもしています。変革のために業界と距離を置き、音楽を必要としている聴衆を味方につける。これが彼の行動を支える原理なのだろうと想像します。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
January 9, 2022 10:23:48 PM
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