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カテゴリ:音楽
一昨日に続き、藤原一弘さんによる「古楽の楽しみ」レオンハルト没後10周年に因んだ企画の第3回放送分を文字起こししましたので、以下にアップします。
* * * * * 古楽の楽しみ ▽グスタフ・レオンハルトの軌跡(3) [ご案内:藤原一弘/レオンハルトが演奏したシャイデマン、フローベルガー、ビーバー、ブクステフーデなどドイツの作曲家の作品をお送りします。] 今日はまず、ハインリッヒ・シャイデマンのニ調のガッリアルドをお聴きいただきましょう。シャイデマンは、アムステルダムのオードケルクのオルガニスト、スウェーリンクの弟子で、ハンブルクで活躍したオルガニストです。オランダのオルガン製作家、ヘルマン・ラファエリスが、1554年にデンマークのロスキレ大聖堂に建造したオルガンで演奏されています。まだ眠い方も、目が覚めるような冴えざえとした演奏です。ではお聴きください。ハインリッヒ・シャイデマン作曲、ニ調のガッリアルド、演奏はグスタフ・レオンハルト、1992年の録音です。 * * * * * レオンハルトの演奏によって、広くその価値が認められるようになった作曲家の代表格は、ヨハン・ヤーコプ・フローベルガーでしょう。南西ドイツの都市、シュトゥットガルトに生まれ、ウィーンで神聖ローマ帝国の宮廷オルガニストとして活躍、ローマでフレスコバルディに師事した後、ヨーロッパ各地を巡り、パリではルイ・クープランとも親交を結びます。皇帝に捧げた美しい自筆譜でも知られています。 フローベルガーが仕えた皇帝「フェルディナント3世の死を悼む哀歌」は3部からなり、とりわけ第2部では、それまで抑えてきた感情が突然激しくほとばしる、劇的な表現が印象的です。第3部は、上昇するヘ長調和音のアルペジオの後、フェルディナント3世を表す高い二点F音が3度鳴り響き、皇帝の昇天が象徴的に表されます。ここでは、ヨハネス・ルッカースが1640年に制作した、オリジナルのチェンバロが用いられていますが、この録音の時点では古典的音律ではなく、平均律に調律されています。多くの若者が、この演奏を聴き、チェンバリスト、チェンバロ製作家を目指すきっかけとなった、記念碑的録音です。ではお聴きください。ヨハン・ヤーコプ・フローベルガー作曲、「フェルディナント3世の哀歌」、演奏はグスタフ・レオンハルト、1962年の録音です。 * * * * * こうした、深く暗い情念に満ちたフローベルガーの音楽は、レオンハルトの心を生涯捉え続けましたが、フローベルガーが親交を結んだ音楽家、マティアス・ベックマンの作品もレオハルトが得意とする音楽です。 ベックマンは、ドレスデン宮廷の楽長、ハインリヒ・シュッツから音楽を学んだ後、ハンブルクで活躍します。ドレスデンで、フローベルガーと鍵盤の腕比べを行いますが、その後二人は生涯にわたり友情を深めるに至りました。ではお聞きください。マティアス・ベックマン作曲、トッカータホ短調、演奏はチェンバロ、グスタフ・レオンハルト、 1996年の録音ですが、70歳近い人物の演奏とは思えない、鋭くみずみずしい音楽です。 * * * * * 次に、南ドイツバイエルンの大都市、ミュンヘンの西南西約80 km に位置するオットーボイレン修道院教会に、カール・ヨーゼフ・リープが1766年に完成したオルガンをお聴きください。 教会内陣の向かって右のオルガンは「三位一体オルガン」、左側は「精霊オルガン」と呼ばれ、当初リープは2台のオルガンを地下でつなぎ、片方から他方のオルガンも弾けるように考えたのですが、技術的に困難なため、この魅力的なプランは放棄されました。三位一体オルガンは名高く、リープ自身、ヨーロッパでこのオルガンを超える楽器があるなら私を無能と呼んでくれ、という言葉を残しましたが、現在は三位一体オルガンの演奏台の金属板にこの言葉が刻まれています。 残念ながら、19世紀に音律が平均律に変更され、パイプが短く切断されてしまいました。音色を損ねる可能性があるため、今日でもかつての美しい音律に戻すことができません。にも関わらず、教会堂の美しい残響、オルガンの設置場所を分断する柱の存在ゆえ、パイプの配置が立体的にならざるを得なかったため、極めて奥行きのある、神秘的とさえ呼びうる独特の響きがします。ではお聴きいただきましょう。ゲオルグ・ムファットが1690年に出版した「オルガン音楽家の備え」から、トッカータ第1番ニ調、三位一体オルガンの演奏はグスタフ・レオンハルト、1967年の録音です。 * * * * * 次に、ボヘミア出身の作曲家、ビーバーの15声のレクイエムから、サンクトゥスをお聴きいただきます。大編成のトゥッティ部分と、ソリストのみによる嬰ハ短調のベネディクトゥスとの対比が美しい効果を上げています。ではお聴きください。ハインリヒ・イグナツ・フランツ・フォン・ビーバー作曲、15声のレクイエムからサンクトゥス、演奏はソプラノ、マルタ・アロマハーノ、ミーケ・ファン・デア・スライス、テノール、ジョン・エルヴィス・マーク・パドモア、バリトン、フランス・ハイツ、バス、ハリー・ファン・デア・カンプ、オランダ・バッハ協会バロックオーケストラ及び合唱団、指揮グスタフ・レオンハルト、1994年の録音です。 * * * * * ここまでの、南ドイツオーストリアの音楽に続き、今度は北ドイツの音楽をお聴きいただきましょう。ハンザ都市リューベックの、聖マリア教会のオルガニストとして名高いディートリヒ・ブクステフーデの前奏曲ト短調は、幻想様式による自由な部分と、厳格なフーガ書法による部分とが交互に現れる、変化に富んだ構造が特徴です。自由な部分におけるダイナミックな表現と、フーガ部分における強力な前進力に、初めて聴いた時にはのけぞりそうになるほどの衝撃を受けました。チェンバロでも、オルガンでも演奏する、レオンハルトお気に入りの作品です。オルガンは、自らがオルガニストを務めたアムステルダムのニーウェケルク、新教会の大オルガンです。ではお聴きください。ディートリヒ・ブクステフーデ作曲、前奏曲ト短調、演奏はグスタフ・レオンハルト、1983年の録音です。 * * * * * 次に、北ドイツの瀟洒な都市、リューネブルクの聖ヨハネス教会のオルガニストとして活躍した、ゲオルク・ベームのカプリッチョ、ニ長調をお聴きいただきましょう。この曲は、3つのフーガ部分と、それらをつなぐ短い自由な部分から構成されていますが、フーガはいずれもウト、レ、ミ、ファ、ソ、ウト、ファ、ミ、レ、ウトという、共通する主題による変奏となっています。ここでは、三つのフーガ部分の性格が、いかにして弾き分けられているかにご注目ください。ではお聴きください。ゲオルク・ベーム作曲、カプリッチョニ長調、演奏はグスタフ・レオンハルト、1992年の録音です。 * * * * * 本日最後にお聴きいただくのは、バッハ周辺の作品を収めた重要な写本、アンドレアス・バッハ・ブッフに収められた、クリスティアン・リッターの組曲ヘ短調から、アルマンドとサラバンド、サラバンドには美しい二つの変奏が続きます。ここでは、スコヴロネックが1967年に製作したクラヴィコードで演奏されます。ではお聴き下さい。クリスティアン・リッター作曲、組曲ヘ短調からアルマンドとサラバンド、演奏はグスタフ・レオンハルト、1988年の録音です。 * * * * * チェンバロ、オルガン、クラヴィコードでレオンハルトが演奏したドイツ・バロックの音楽、いかがだったでしょうか。明日は、バッハの音楽を中心にお届けします。それでは皆様、どうぞよい1日をお過ごしください。ご案内は藤原一弘でした。 (つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
February 13, 2022 10:21:07 AM
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