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カテゴリ:音楽
この2週間あまり、「ロシア」によるウクライナへの軍事侵攻と、現地の悲惨な状況が連日連夜あらゆるメディアで伝えられています。亭主も映像を見る度に目を背けたくなるだけでなく、その不条理さに腹の底から怒りが込み上げてくるのを禁じ得ない思いです。
が、ここで気をつけなければならないのは、このような怒りという「感情」の向かう先です。 以前にこのブログでも取り上げた「デカルトの誤り」の著者、アントニオ・ダマシオが語るように、ヒトのすべての判断、および行動は感情がベースになっています。ヒトの心の中ではまず感情が起こり(「速い思考」とも言う)、それから理性という「遅い思考」が動作するというわけです。特に、ある行動を起こす元となる感情は「動機」とも呼ばれます。(典型的な例が犯罪で、第三者が一連の出来事を理解した、と思えるのは犯罪者の「動機」が解明されたときです。ヒトは理性的な論理だけではいかなる行動も起こせない動物です。) ただし、「速い思考」である感情は即断即決を旨とし、残念ながら対象を細かく冷静に分析しないのが欠点。(これは、怒りや恐怖が「生存」を左右する瞬時の行動判断に関わるからです。)「ロシア」という言葉が単に国名に過ぎないことは明らかですが、この言葉が強い感情を掻き立てるようになると、「ロシア」と名がつくもの全てがそのような感情の対象になってしまいます。 例えばロシア人、ロシア音楽、ロシア料理…、と挙げればキリがありません。彼ら・それらが今ウクライナで起きていることとは何ら関係がないにもかかわらず、「ロシア」と付くだけでネガティヴな感情を引き起こします。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」というわけです。 これは人がヒト(動物)である以上、ある程度避けられない反応ですが、ここで理性という「遅い思考」を働かせられるかどうかが、文明と野蛮の境目でもあります。 ロシア国大統領は確かにロシア人ですが、逆は真にあらず(=袈裟は坊主ではない)。これを区別するには遅い思考による冷静な論理的判断が必要です。 実際、このような判断ができなかったゆえに起きた悲劇は枚挙にいとまがありません。直近では、新型コロナウイルスの発生源として中国が疑われた結果、米国ではアジア系の人々に対する謂れなき暴力というヘイトクライムが起きました。(これに限らず、ヘイトクライムとは文字通り「ヘイト=嫌悪という感情の向かう先を間違ったことによる暴力」です。)戦争時に例を取れば、同じく米国における日本人強制収容など、それこそ数限りなく存在するでしょう。 現在、クラシック音楽の世界でも、ロシア人音楽家が白い目で見られ、ロシア音楽の上演を忌避する風潮が蔓延し始めているようですが、これが何とも非論理的な対応であることは言を待たないところです。 ロシア国の大統領とその軍隊の暴挙に憤りを感じつつ、何もできない現実を前に、感情のやり場に困っているのは亭主だけではないと思われます。しかしながら、一般のロシアの人々には何の科もないし、ロシア音楽を演奏することに何の罪もないはず。 この点で気になるのが「公人」としてのロシア人音楽家の立場です。著名なロシア人指揮者、ヴァレリー・ゲルギエフ氏は、以前からロシア国大統領と親密な関係にあり、そのロシア内外におけるキャリアと名声は(少なくとも為政者側からは)音楽による「国威発揚」に資すると見られているでしょう。 ゲルギエフ氏の行動がロシアの公人としてのもの(=ロシアの国益を代表する)であれば、行動の内容によっては批判の対象になることはありだろうと思われます。一方で、「人はその思想・信条のみを理由に迫害されてはならない(内心の自由)」というのは人権の基本であり、ゲルギエフ氏が心の中でに何を思い、誰を支持しようと、それだけで彼が懲罰を受けるのは非文明的です。 例えば、最近クビになった「ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者」というポストがロシアの国益とどう関係しているのか、亭主から見ると自明ではありません。(彼の指揮によるミュンヘン・フィルの演奏が拍手喝采を浴びることは、ロシアの現体制への礼賛になる、という話のようですが、これは怒りの矛先を間違ってはいないだろうか?) 報道されるところによれば、ゲルギエフ氏は欧米の音楽関係者から自身の思想・信条のようなものを問われて完全黙秘を貫いているとか。深読みすれば、これは単に内心の自由のためだけでなく、欧米の音楽関係者に人権侵害の口実を与えない、という意味で、実のところ彼らを庇っているのかもしれません。 最後に今朝の新聞の投書欄に載った記事が目をひいたので、以下に引用させて頂きます。 「ロシア人ピアニストの一言に涙」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
March 13, 2022 09:07:50 PM
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