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カテゴリ:音楽
以前このブログで、英国古楽のストレート・スタイルの例として、ガーディナー指揮・イングリッシュ・バロック・ソロイスツによるヘンデルの「水上の音楽」を取り上げました。その際に、この演奏を含め、亭主が知っている1980年代の英国の古楽演奏家による演奏と最近のヨーロッパ大陸のそれとはだいぶ違うかもしれないと書きましたが、この週末に偶然エルヴェ・ニケ率いるル・コンセール・スピリチュエルによる「水上の音楽」ライブ演奏をYouTubeで眺める機会があり、文字通りびっくり仰天の演奏にブッ飛びました。
演奏の大きな特徴の一つはテンポの取り方で、超「快速」なのはお察しの通りです。冒頭の序曲とアダージョからしてサクサクと進み、特に序曲はリュリのオペラのそれを思い起こさせて思わずニヤリ。エアなど、通常であればゆっくりと演奏するところも実に軽快で、間然とするところがありません。とにかくこれまでに耳にしたことがない演奏で、「次はどうなるんだろう」とワクワクしながら一気に聴いてしまいました。 なかでも驚かされたのが、前半の「アレグロ」での金管楽器の響きです。総勢9人のナチュラルホルンの合奏はまさに「咆哮する金管!」で、これまで聞いたこともないほどド迫力な音に圧倒され、亭主は文字通り背筋がゾクゾク。やはり同じ数ぐらいのナチュラルトランペット(?)もホルンに劣らずの存在感。さらには、それらに負けじと木管パートも大人数が奏でる音量で迫って来ます。それもそのはず、映像を見るとオケ全体も通常の古楽オケとは異なり、モダンのフルオーケストラに匹敵するような大人数(80人ほど)です。当時の演奏がテムズ川のほとり、音が拡散する屋外で行われたことを強く意識した結果、このような大編成になったものと想像されます。 後で調べてみると、ニケは2002年にル・コンセール・スピリチュエルの結成15周年を記念してヘンデルの演奏会を行ったようで、これを録音・CD化しています。その準備には構想から5年もかけ、21世紀を超えて進化し続ける古楽の到達点を示すために、作品の初演時に用いられていた楽器とその奏法を忠実に踏まえることを目標にしたとのこと。特に、ニケはそれまでモダン楽器との折衷が普通だった金管楽器・木管楽器についてもオリジナルな響きを再現することに特段の意を用い、細部に至るまで同時代の記録を詳細に調べ上げて再現した楽器を特注で製作させて演奏に用いたようです。あの迫力あるホルンやトランペットは、そのような周到な準備の賜物だったと合点が行きました。(初演から20年を経た今ではもう珍しくない?) ちなみに、YouTubeで検索すると、この2002年当時の演奏会(2002年9月、フランス、メッツ市のアーセナルホール)を録画したと思しき動画がヒットしますが、さすがに20年前の映像・音響標準のためイマイチです。そこでさらに調べると、2012年の英国の音楽祭プロムスでの演奏、さらには2016年にフランス北中部・ロワール渓谷にあるシャンボール城で開催された音楽祭での演奏をライブ録音・録画した動画を発見。いずれも明らかに2002年の記念演奏会の流れを汲んでの演奏で、亭主が上記に置いたリンクは新しい方(2016年)のそれです。冒頭にシャルパンティエの作品がいくつか流れ(あの有名なテ・デウムの演奏もあり)、「水上の音楽」の後にはヘンデルの合奏協奏曲を挟んで「王宮の花火の音楽」が演奏されます。コンサートは途中で日没となりますが、終曲になるとお城を背景に盛大に花火が上がり、コンサートを大いに盛り上げます。(花火の爆裂音は音楽を聴くにはやや邪魔ですが…) このようなニケ & ル・コンセール・スピリチュエルによるヘンデルの演奏を聴くと、「古楽の終焉」の著者ヘインズ氏が言うところの「修辞学の炎」に満ちた演奏とはまさにこのようなものだろう、と思わされます。まだ未体験の方は一見の価値あり、です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
November 27, 2022 09:53:19 PM
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