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カテゴリ:音楽
今年も残すところあと1週間となりました。なかなか収まらないコロナ禍に加え、ロシアによるウクライナ侵略という誰もが予想しなかった事態に世界中が翻弄された1年でしたが、亭主の周りではそのような暗い影の中にも何とか「日乗」が保たれていたように感じられます。
このような状況で日々の出来事に接しつつ、「人の世の動きを支配するものは一体何か」という長年の疑問への答えとして、今や亭主の確信となりつつあるのが「感情」です。60余年も生きてようやく辿り着いたのがこれほど単純な答えだったというのも皮肉ですが、近年の脳科学、文化人類学、行動経済学など、ヒトに関する科学すべてがそれぞれの道を辿って同じような結論に導かれつつあります。ヒトが行動を起こすのは、理性や合理的判断によるのではなく、「…したい」という感情からでしかない。残念ながら、これが生物であるヒト族の限界のようです。(ロシア国大統領の行動は一つの例に過ぎません。)来年は、このような前提の下、人の世をよりマシなものにするにはどうしたらよいのかを考える1年にしたいもの。 ところで、コロナ禍でほとんど音楽会(演奏会)に行く機会が限られる中で、新聞やネットに出るクラシック音楽の演奏会評や音楽批評を読んでいるうちにフツフツと湧いてきたのが表題のようなギモンです。 もちろん、音楽に限らず「批評」とは結局のところ、批評する対象そのものを語るのが目的ではなく、それをネタに批評者が自身のものの見方、考え方を披露する場だろうと(少なくとも亭主には)思われます。 ところが、亭主がこのところ新聞で目にする批評文を眺めていると、文字数制限もあってか、対象を短文で急いで描き、比喩的に演奏の寸評を述べるような記事が幅を利かせているようにも思われます。 しかしながら、毎週のように新聞に掲載される演奏会評やCD選評など、いくら読んでも実際にどのような音が響いたかを想像することは困難で、演奏に接する機会がなかった一般読者には、せいぜい過去に自分が聴いたものを何とか思い出すぐらいしかできません。CDならまだ自分で買うなり、同じ音源をストリーミング配信の曲目中に見つけるなりして自分の耳で確かめることもできますが、一回限りの演奏会となればそれもできない相談です(某局で後日放送される演奏会の録画番組にしても、それが演奏会批評の評者が聴いた回とは限らないことに注意)。 さらに、批評の読者がたまたま同じ演奏会に立ち会い、あるいは同じCD録音を聴く機会があったとしても、批評者の論評内容とは異なる印象・感想を持つことも少なくないでしょう。であれば批評を読んだことは単に余計な先入観を持たされただけ、ということになります。 いずれにせよ、ライブ演奏会、あるいは初回のCD再生は誰にとっても一期一会。聴くものの心に2度と同じ音が響くことはありません。 なので、音楽批評が単に演奏会の模様を伝えるだけのものであれば、そもそも存在理由が乏しいように思われます。 亭主がかつて、演奏会評について唯一意味があるかもしれない、と思っていたことは、批評された側の演奏家自身がそれを目にすることでした(いわば演奏へのフィードバックです)。その昔、「世紀の名ピアニスト」として鳴り物入りで来日公演を行ったホロヴィッツの演奏を、著名なクラシック音楽評論家である吉田秀和翁が「ひび割れた骨董」と評したのに対し、それを知ったホロヴィッツ自身が名誉挽回とばかりに再来日して名演(?)を披露したというエピソードは有名です。 もっとも、終わってしまった演奏会の出来についてとやかく言われても、演奏家・聴衆いずれの側にとってもやり直す意味など本来はないに等しい(仮に同じ聴衆が同じ場所に集まったとしても、結局は全く別の演奏会になる)。最初の来日時に、ホロヴィッツは体調不良を抱えていたとのことで、そのような状況で演奏したこと自体、プロとしては問題です。が、もしも彼が演奏会を「やり直しが効くもの」と思っていたのであれば、やはりナイーブとしか言いようがないところです。 いずれにせよ、ホロヴィッツのような例は例外中の例外というもの。かつてクラシック音楽が「みんなの教養」だった昭和のころには、著名な演奏家の音楽会評は、文化的スノッブの「見たい知りたい」という感情を手っ取り早く満たす(?)格好の読み物でした。そのような音楽批評を読んで、チケットが取れない人気演奏家や「話題の新人」の音楽会に自分たちも行った気になった、というわけです。 しかし昭和は遠くなりにけり。クラシック音楽がサブカル化しつつある昨今、一部のマニアだけを読者にした「Veni, vidi, vici!」的な音楽批評はもう役割を終えたのではないか、という気がするのは亭主だけでしょうか。 それでは皆様、どうぞよいお年を。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
December 27, 2022 09:11:00 AM
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