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カテゴリ:音楽
「レコード芸術」(通称「レコ芸」)といえば、本邦における(唯一の?)クラシック音楽の音盤レビュー雑誌。創刊は1952年とすでに70年以上の歴史を誇る老舗雑誌で、クラシック音楽ファンなら一度ならず手に取ったことがあると思われます。そのレコ芸が今年の3月号でバロック以前の音盤の特集をやるらしい、という噂を小耳に挟んだ亭主、久々に雑誌の現物を拝もうと、ご近所のイオンモール内にある大きめの書店に足を運こびました。ところがどっこい、結構広めの雑誌コーナーの一角に設けられた音楽雑の書棚の前に立ってみると、いくら探しても並んでいるのはロックやポップス系(?)の雑誌ばかりで、クラシック音楽に関係ありそうな雑誌といえば「モストリー・クラシック」のみ。レコ芸はいまや地方都市の中規模程度の書店では扱ってもらえないマイナー雑誌のようです。(まぁ、予想された事態ではありますが…)
そこで、仕方なく通販で用を足すべくネット上を検索したところ、某ネットショップが送料無料で扱っていることがわかり早速注文。この週末にパラパラと眺めていました。 亭主が最後にレコ芸の実物を購入したのは多分2000年代の初頭で、当時は新譜の「さわり(サンプル音源)」を詰め込んだCDが付録になっていました。その当時、CDはまだ実店舗で買うしかなく、輸入盤などを手に入れるには相当な手間ヒマがかかりました。そんな背景の下、手軽にさわりが聴ける付録のCD目当てにレコ芸を数回購入した覚えがあります。とはいえ、何回か繰り返すうちに、さわりだけ聴いても返って欲求不満が溜まるだけと分かり、まもなく沙汰止みに。残っていた雑誌も書棚がいっぱいになったところで他の古雑誌もろとも資源ゴミに出され、その後は手に取る機会もないままでした。なので、今回おそらく20年ぶりぐらいでブツを手にしたことになります。その第一印象は、「お〜、随分薄くなったな…」というもの。(CDの凋落とサブスクの台頭など、時代の変化を感じさせます。) さて、亭主の関心は、もちろん雑誌の見てくれにあるのではなく、その中身です。何しろ通常は「クラシック音楽」の範疇に入らないバロック以前の音楽を前面に押し出す以上、クラシック音楽の音盤レビュー雑誌がそれらをどのように扱っているのか、亭主には興味津々といったところでした。 まず、この特集を取り仕切ったと思われる音楽評論家・矢澤孝樹さんの序文によると、このような特集は本誌史上初とのこと(...ムベなるかな)。そこで矢澤さん曰く、編集部の意図としては、おそらく(クラシック音楽における)「既知の名曲の『名演』が更新された新時代の可視化」という作業を、バロック以前の音楽にも当てはめる(同じように「名曲」の『名演』を更新する)ことにあった、と忖度します。が、彼はそれに対して抵抗を試み、新時代に更新されたのは「名演」だけでなく「名曲」もだ、と宣言します。 これを亭主流に言い換えると、「名曲」を確立された芸術作品とするクラシック音楽の「正典主義」に抗し、これから聴かれるべき古楽作品のリストを提示しよう、というものです。実際、特集のタイトルも「究極の50枚」ではなく「究極の50曲」。ページを繰っていくと、(数人の例外を除いて)音楽家一人につき一曲を代表作として取り上げており、それぞれに対して複数枚のおすすめ音盤を列記しています。(ちなみに例外はジョスカン・デ・プレ、モンテヴェルディ、ラモーの三人で、それぞれ2曲が取り上げられています。) とはいうものの、グレゴリオ聖歌まで含めれば千年近い期間にわたり蓄積されたバロック以前の音楽作品は膨大で、そもそもどの作品が「正典」に相応しいか、などといった選別を行うこと自体、土台無理があることは選者も認めるところです。 それでも50曲を選んでしまった、という点を古楽の視点から見れば、やはりクラシック音楽の正典主義にマンマと乗せられてしまった感は否めません。 ただ、同じ序文で矢澤さんは、近年「古楽」が大きく発展し、「クラシック音楽」の既成概念を揺さぶるとともに、それが単なる博物館的な復古趣味ではなく「今という時代を鏡に映し考える機会すら与えてくれる」と力強く擁護しています。 また、大変興味深いことに、特集記事のすぐ後には、音楽評論家の舩木篤也さんが2022年度のレコード・アカデミー賞(レコ芸のイベント)で大賞を授与されたラファエル・ピション指揮・ピグマリオンのバッハ「マタイ受難曲」を取り上げるに際し、ブルース・ヘインズ著「古楽の終焉」を参照しながら、HIP(Historically Informed Performance、歴史的知識にもとづく演奏)がどのように実装されたかを、過去の音盤で聴かれる演奏も含めて論じていました。 これらの記事を目にすると、レコ芸も(薄くなっただけでなく)変わってきたのかも、という印象を持ちます。一方で、本雑誌の大多数の読者であろう昔ながらの「クラシック音楽」ファンにどの程度響いたかとなるとやや疑問。また、他の記事は依然として伝統的な音盤や演奏家(故人から現役まで)の紹介がほとんどで、編集方針は万古不易という風情。(大体、今どき「レコード」という言葉が音盤を意味することを直ちに理解できる若者はどのくらいいるのだろうか…) ちなみに、亭主はだいぶ以前から、古楽専門の情報誌が出てこないものか、とムズムズしているところです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
March 12, 2023 09:17:24 PM
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