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未音亭日記

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未音亭@ Re[1]:セバスティアン・デ・アルベロ「30のソナタ」(01/15) tekutekuさんへ これまた情報ありがとうご…
tekuteku@ Re:セバスティアン・デ・アルベロ「30のソナタ」(01/15) ジョゼフ・ペインのライナーノーツに関し…
tekuteku@ Re:セバスティアン・デ・アルベロ「30のソナタ」(01/15) ジョゼフ・ペインのライナーノーツに関し…
未音亭@ Re[1]:セバスティアン・デ・アルベロ「30のソナタ」(01/15) Todorokiさんへ コメントありがとうござい…

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June 4, 2023
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カテゴリ:音楽
エミリア・ファディーニ校訂によるリコルディ版のスカルラッティ・ソナタ全集、当初の計画では全10巻で完結する予定で1978年に刊行が始まりましたが、1995年に第8巻が出て以降、実質的に中断の状態が20年以上続いていました。その長い沈黙を破って第9巻が出版されたのが2016年。そのことを知らずにいた亭主が、出版から随分と時間が経ってから(2019年)楽譜を入手するに至った顛末(たまたま見に行ったウィキペディアの記述で出版を知った)は、以前にこのブログでご紹介しました。

今回は、先月初めに何かの拍子で上記のブログを再訪し、ふと気になってリコルディ社のWebページにアクセスしたところ、またもや知らぬ間に(一昨年の2021年)第10巻が刊行されていたことを発見して驚くことに(その後ウィキペディアのページでも記載が更新されているのを確認)。

この巻は、他でもなくドメニコの生前に唯一出版され、彼の最も有名な作品集でもある「練習曲集(Essercizi per Gravicembalo)」が収録されるとあって、リコルディ版の購入者にとっては文字通り1日千秋の思いで待ち望んでいたもの。亭主もこれまでになく興味があります。

そこで、早速楽譜を入手すべくネット上で検索をかけてみたものの、驚いたことに海外を含めどの楽譜ショップのカタログにも記載が見当たりません。刊行直後ならともかく、もう1年以上経過していることを考えると、この状況はやはり彼の音楽への関心の度合いを表しているということかも、などと思いつつ諦めかけていたところ、何とAmazon.co.jpでヒットしました(さすがアマゾンですが…)。さらに詳細を調べたところ、どうやらスペインの出店者が扱っているようです。ウクライナ情勢もあってヨーロッパからの貨物は滞りがちで不安でしたが、他に選択肢もなくクリック。注文は即日処理されて、荷物はFedexに渡されたとの通知が来たのが5月11日でしたが、それから待つこと3週間、到着予定の最終日に近い先月末になって無事到着しました。




というわけでこの週末、ワクワクしながら楽譜を譜面台に置き、初めの10曲ぐらいを弾き始めたところ、やはりところどころでウジュル版と音が違っているように感じます。さらに、K.6、K.8、K.9では何と「練習曲集」版に続いて異稿(別バージョン)が載っており、これらも大いに興味を引きます。特に、K.9の異稿では最後に1ページ・34小節のMinuetがついていて、これも今まで全く知らなかった作品。

ここまで来たところで、適当に弾き散らかす前に、まずは校訂の経緯を読んだ方がよいと思い直し、第9巻からファディーニ女史に代わって校訂を務めるマルコ・モイラージ氏による、イタリア語で20ページ弱の長いIntroduzioneの英語版を読み始めたところ、これまた亭主が知らなかったことが次々と出てきてもう大興奮。まだ半分ぐらいまでですが、ちょっとだけネタばらしをしすると、例えば前述のK.9のソナタは、初稿の作曲年代が1720年以前(ちょうどドメニコがローマを去ってリスボン、ジョアン5世の宮廷に移る頃まで)と特定されたようです。その手がかりとなったのが現在トリノ大学にある「Manuscript 394」で、今回異稿として収録されているのもこれに収まっているバージョン。

このトリノ手稿譜、同大学(トリノ国立図書館)のフォア・ジルダーノコレクションに収まっているとのことですが、カークパトリックの著作でも資料としての言及がなく、亭主はこれまでその存在すら聞いたことがありませんでした。(ちなみに、このフォア・ジルダーノコレクション、「失われた手稿譜—ヴィヴァルディの物語」でも登場したことを思い出します。)

手稿には、父スカルラッティ、ガエターノ・グレコといったドメニコの師匠世代にあたるナポリ派の作品、さらにはドメニコやヘンデルの初期の作品などの一群の曲が含まれており(「ナポリ派新人」をフィーチャーする音楽帳とも解される)、しかも後の時代にいくつもの他の音楽帳と無造作に(?)合本されてしまったために、それらの音楽学的な整理にかなりの労を要したようです。が、その甲斐あって、そこに含まれていたドメニコ作品を含む一連の手稿についても色々なことがわかってきた、ということのようです。これまで特定が極めて困難だったドメニコのソナタの作曲年代が判明した、というのは画期的で、音楽学者の執念の賜物というべきか。

ちなみに、トリノ手稿版のK.9に含まれていたMinuet、実は「練習曲集」の最後を飾る「猫フーガ」とそっくりの音階(増4度+7度)が登場することも指摘されており、こちらも話がどう展開するのか興味津々といったところです。

考えてみれば、異稿が多く最も校訂者泣かせであろうことが予想される「練習曲集」を世に問うまでには、文字通り膨大な音楽学的研究の蓄積が必要だったと思われます。2020年末の日付をもつこのIntroduzioneは、その最新の成果を垣間見せてくれる貴重な記事となりそうです。

最後に驚きのニュースをもう一つ。Introduzioneによると第10巻は最終巻ではなく、何と追加で第11巻が刊行される予定(!)とのこと。この巻には555曲に加えて新たにドメニコの真作と同定されたソナタ、および全ソナタの主題カタログが収められるそうで、こちらもいつ出るか楽しみです。










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Last updated  June 4, 2023 09:39:56 PM
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