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未音亭日記

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未音亭@ Re[1]:セバスティアン・デ・アルベロ「30のソナタ」(01/15) tekutekuさんへ これまた情報ありがとうご…
tekuteku@ Re:セバスティアン・デ・アルベロ「30のソナタ」(01/15) ジョゼフ・ペインのライナーノーツに関し…
tekuteku@ Re:セバスティアン・デ・アルベロ「30のソナタ」(01/15) ジョゼフ・ペインのライナーノーツに関し…
未音亭@ Re[1]:セバスティアン・デ・アルベロ「30のソナタ」(01/15) Todorokiさんへ コメントありがとうござい…

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November 12, 2023
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カテゴリ:音楽
先週の朝古楽は再放送、昨年暮れも押し詰まった12月最終週の放送分で、アレッサンドロ・スカルラッティの音楽が5日間にわたって取り上げられました。解説は、昨年度で番組を卒業されたイマッターニ先生。再放送とは言え、例によって亭主は綺麗さっぱり忘れていたので、毎日の通勤時に昨年録音した音源を放送の順に再生、聴き直すことに。(何故か欠落していた2日目の放送も今回無事録音に成功。初めて通しで聴くことができました。)

さて、クラシック音楽の世界で「スカルラッティ」と言えば、大抵はアレッサンドロの息子であるドメニコ・スカルラッティのことを指しています。父スカルラッティ(X[旧Twitter]で彼のことが「おやっサンドロ・スカルラッティ」と渾名されていたのは言い得て妙)の方は精々「ナポリ派の代表的なオペラ作曲家」、あるいはモーツアルトに影響を与えた音楽家、という風に音楽史上の人物として言及されるだけのことがほとんどだと思われます。

一方、古楽の世界では、アレッサンドロをはじめ数多くのナポリ派の作曲家のオペラやカンタータはリバイバルが進んでいるようです。何しろこの時代の音楽家は超多作で、アレッサンドロも例外ではありませんが、CD録音だけでもかなりの数の彼の作品を聴くことができます。(ブリリアント・クラシックレベルからは30CDのボックスコレクションも出ています。)番組ではそのような音源の中からカンタータ7曲、宗教声楽曲が5曲、オラトリオ1曲、および器楽作品のいくつかが紹介されました。

ところで、シリーズ4日目に放送されたのが、オラトリオ「ジュディッタ」。イマッターニ先生の解説によると、アレッサンドロが最初にナポリ副王に仕えていた時代の1693年(息子ドメニコは当時8歳)の作曲。演奏の冒頭、明るい感じの曲が1分ほどで終わり、一瞬の間を置いた後で唐突に始まった重々しく進行する曲を聴いているうちに「この曲なんだか聞き覚えがあるぞ…」と思い始めました。やはり1分ほどで件の曲が終わったところで、ハタと脳裏に浮かんだのがセバスティアン・バッハの平均律クラヴィア曲集第1巻、第24曲(ロ短調)の前奏曲です。(下記動画で確かめることができます。)


この類似、気になってIMSLPから譜面をダウンロードして眺めたところ、冒頭の序曲に相当すると思われる部分の前半がシンフォニア、後半はグレーヴと題されていました。バッハの前奏曲と似ているグレーヴの方はロ短調、4分の4拍子で、これもバッハの曲と同じです。正確に言うと、二部形式になっている前奏曲の前半部分がちょうどグレーヴと対応している感じです。(ただし小節数を数えると前奏曲の方がやや多く、その分若干長めですが…)



このような音楽の類似、偶然であればせいぜい1〜2小節程度でしかないのが普通です。それに対し、問題の2曲は十数小節の全体がウリ2つと言っていいほど似ているので、多分偶然ではなさそう。そこで亭主が妄想するに、バッハはどこかでアレッサンドロの作品を目にしてパクったのではないか?

この妄想がまんざらウソでもなさそうな背景として、18世紀前半にはナポリ派の音楽、特にそのオペラがヨーロッパの音楽シーンをリードしていたことが挙げられます。当時、「音楽の都」といえばナポリを指していました(今日そう呼ばれるウィーンは片田舎の小村でした)。バッハの作品に時折現れる「ナポリの6度」と呼ばれる終止形も、そのような影響の証拠と言えるでしょう。

また、平均律クラヴィア曲集第1巻はバッハのケーテン時代、長男フリーデマンの教育用に編まれたものとされますが、その一部が元になった「フリーデマンの音楽帳」には他の作曲家の音楽のコピーも含まれています。先行するワイマール時代にはヴィヴァルディやマルチェッロなどの多数の協奏曲を鍵盤独奏用に編曲するなど、イタリア音楽を集中的に研究したと思われ、当然ナポリ派の音楽にも接していたと想像できます。(バッハと同級(?)のヘンデルがイタリアを旅したのも、やはり当時流行の音楽について見聞を広めるためでした。)

ただし、ここでいかにもバッハらしい点として、「ジュデシッタ」冒頭の2曲のうち、「シンフォニア」がホモフォニックな音楽(旋律+伴奏)であるのに対し、バッハが真似たのはポリフォニック(対位法的)な「グレーヴ」の方だったことは、彼の音楽についての生来の好みを端的に示しているとも言えそうです。

それにしても、バッハがこれほど明示的に他の音楽家の作品を真似た例は、亭主が知る限りブクステフーデの例(パッサカリアBWV 582とブクステフーデのニ短調のそれBuxWV 161の類似)ぐらいで、その点で大変興味深い例だと思われます。

というわけで、思わぬところでおやっサンドロの音楽とバッハのそれとの接点を見つけ、一人悦にいる亭主でした。





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Last updated  November 12, 2023 09:54:13 PM
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