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未音亭日記

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未音亭@ Re[1]:セバスティアン・デ・アルベロ「30のソナタ」(01/15) tekutekuさんへ これまた情報ありがとうご…
tekuteku@ Re:セバスティアン・デ・アルベロ「30のソナタ」(01/15) ジョゼフ・ペインのライナーノーツに関し…
tekuteku@ Re:セバスティアン・デ・アルベロ「30のソナタ」(01/15) ジョゼフ・ペインのライナーノーツに関し…
未音亭@ Re[1]:セバスティアン・デ・アルベロ「30のソナタ」(01/15) Todorokiさんへ コメントありがとうござい…

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December 10, 2023
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カテゴリ:音楽
先週の朝古楽は昨年6月の「18世紀中頃のフランスの鍵盤音楽」の回の再放送(全5回、MCは関根敏子先生)。一年以上も前の放送内容などすっかり忘れていましたが、番組のホームページで楽曲情報をざっと眺めると、月曜日のダジャンクール、ダンドリューから始まってダカン、デュフリ、フォルクレ、ロワイエ、バルバートルと、亭主にとってはお馴染みの作曲家がほとんどです。例によって放送は自動的に録音されるものの、再放送なので録音はパソコンの「ゴミ箱」に放り込みに、昨年の初回放送時に録音した音源をiPodに入れ直して通勤時に再生しながら聴き流していました。

ところが、その2日目(2022年6月21日)の録音を聴いていたところ、後半の半ばを過ぎたところで突然気象に関する緊急放送で番組が中断していたことが判明(もしかすると再放送された理由もこれか?)。そこで、この週末にゴミ箱に入っていた今回の録音を慌てて拾い出し、改めて聴き直してみたところ、亭主にとって「発見」となったのがお題の作品です。

番組ではバリエールの「クラヴサン・ソナタ集」から 「ブコン」、ソナタ第1番(ロ短調)から第1楽章、同じくソナタ第5番(変ロ長調)がオンエアされました。そこでまず亭主の耳を捉えたのがハープシコードの素晴らしい音色です。亭主が知っているどのフレンチタイプの楽器よりも明るい音色で、そのややメタリックな感じはむしろイタリアンタイプの楽器を思わせる響き。さらに、その楽器が響かせる音楽がとてつもなく装飾的で華麗なフレーズに満ち溢れており、「これがフランス・クラヴサン音楽のレパートリーなのか?」とびっくり仰天するも、亭主の好みにズバッとハマる感じです

というわけで久しぶりにクラヴサン音楽に強烈な刺激を受けた亭主、音源の情報を求めてネット上を探索することしばし。放送で使われたのはルカ・クインタヴァッレという演奏家によるCDで、バリエールに加えてベルナール・ド・ビュリ(1720—1785)という同時代の音楽家の作品を収録したもの。2017年にブリリアント・クラシックレーベルからリリースされていましたが、例によって既に入手困難になっています。そこで適当な動画が落ちていないかと探したところ、何とCDが丸ごとYouTubeにアップされているのを発見、早速聴き始めたところ、止まらなくなり一気に拝聴しました。



一方、ネット上をさらに検索したところ、今度は何と件のCDのライナーノートがそっくりPDFファイトとして落ちているのを発見、こちらもちゃっかり読ませせて頂くことに。まず大いに気になっていた楽器についての記述を見ると、使われているのはDonzelague(1711)のコピーとあります。「Donzelague」でヒットしたあるサイトの記事では、「ピエール・ドンゼラーグは5オクターブのコンパス(FF-f3)を最も早くから楽器に組み込んだ製作者の一人である。18世紀第1四半期にリヨンで製作され、1709年、1711年、および1716年製の現存する3つの楽器の外形と構造はすべて似ており、3台とも後に標準となるこの大きなコンパスを備えている。彼の楽器には構造と装飾の両面でフランドルの影響が強く見られ、当時フランドルの古い楽器、特にアントワープのルッカーズ工房の楽器が高く評価されていたことを反映している。ドンツェラーグの楽器はケースが大きいため、音がより洗練される傾向にあるが、それでもフランドルのプロトタイプに見られる色彩と存在感を残している」とあります。




そして肝心の音楽については、演奏者自身の手になるライナーノートの中で時代背景から始まってバリエールの「ソナタ」の由来が詳しくかつコンパクトにまとめられていますので、関係する主要部分を以下に亭主訳でアップしておきます。
フランス啓蒙主義の時代は、徐々に進行する絶対王政の弱体化、哲学者たちの思想の広範な流布、フランスの不幸の増大、そして市民階級の知的野心によって特徴づけられた時代であり、ルイ14世の治世のような儀礼的で秩序ある社会にはもはや属していなかった。娯楽や社交はヴェルサイユからパリに戻り、この種の音楽の必要性は徐々に薄れていった。活字文化の爆発的な普及とコンセール・スピリチュエルのコンサートは、フランスにおける器楽の並外れた活力、イタリア風ソナタの普及、ヴィルトゥオーゾの大流行を後押しした。バリエールとド・ビュリは、この新しい現実に対する2つの正反対の反応(最も革新的な前者と最も保守的な後者)を示している。
 ジャン=バティスト・バリエールは1707年5月2日にボルドーで生まれた。1731年、パリ・オペラ座の人事記録に "basse d´orchestre “として名前が記載されるまで、彼については何も知られていない。フェティスは、バリエールがフランシスコ・アルボレアに師事するために1736年にイタリアに渡ったと誤って書いている(オペラ座の文書では、彼が1737年4月から1741年まで不在だったことになっているが、アルボレアは実際には1726年から1739年までウィーンにいた)。バリエールはおそらく1738年にイタリアから帰国したと思われる。彼は、チェロのために徹底的に慣用的な音楽を書いた最初のフランスの作曲家であり、彼のソナタ(1733年から1740年頃まで4冊出版)は、彼がイタリア様式を強く吸収したことを示している。
 彼の第5巻は、古いヴィオール族中でも最も小型で最高音部を受け持つpardessus de violeという楽器に捧げられているが、この楽器はヴァイオリンのために書かれた音楽を演奏するための代替手段として1730年から1760年まで大いに人気があった。第5巻の6曲のソナタのうち、最初の5曲がハープシコード用に編曲され、新たに作曲された第6曲と他の6曲とともに彼の第6巻となり、この楽器のための印刷されたソナタとしては初の曲集として出版された。これらの作品には、フランスのハープシコード・レパートリーで初めてF#1やG#1、イタリア語の強弱用語の使用、楽器の最低オクターブでの全和音(長三度でも)の使用などが含まれており、この時代のフランスでまだ使われていた中全音律では実に衝撃的に響いたであろう。もし代わりに(1737年にラモーが提案したように)平均律を用いれば、17世紀末にマルク=アントワーヌ・シャルパンティエやシャルル・マッソンが挙げたような「旋法のエネルギー」がこれらのソナタから失われてしまうだろう(中略)…その上、多くのアルペジオは典型的なイタリアのアッチアッカトゥーラに満ちていて、異なる和音をさらに「汚く」、不協和音にしている。典型的なイタリア風スタイルは、前触れなしの不協和音や7の和音、9の和音、減和音、あるいは5度圏の進行(ヴィヴァルディの曲のようだ)などの使用である。協奏曲の様式(独奏と全奏を伴う)、突然の短調への移行、幾つものカデンツァ、長広舌や書き下された華麗な装飾音などの多用によって、カストラートとコレッリ/ジェミニアーニの装飾様式とラモーやドメニコ・スカルラッティの最新の業績を折り混ぜた新しいヴィルトゥオジティを生み出す。(以下略)
実際、バリエールのソナタの演奏やその楽譜を眺めると、リストのそれを思い起こさせるものがあります。かつて「ドメニコ・スカルラッティの背景」の中でドメニコを「チェンバロのショパン」に喩えたサチヴェレル・シトウェル風の物言いをすれば、バリエールは「チェンバロのリスト」かも?ハープシコードという楽器でここまで名人芸を聴かせるルカ・クインタヴァッレの演奏も実に素晴らしいものがあります。

ドメニコの名前が出てきたたところで、彼の「練習曲集」(Essercizi)とバリエールのクラヴサン・ソナタ集との関係も気になってきます。そこで後者が出版された年を調べてみると、その元になったヴィオール曲集が出たのが1740年、その編曲版第6巻が出たのはその年以降とあります。「練習曲集」がロンドンで出版されたのは1739年初頭で、ボアヴァン夫人による同曲集の出版は1742年とやや遅れますが、おそらく1740年ごろにはパリでも話題なったものと想像されます。というわけで、もしかするとバリエールもドメニコの練習曲集をどこかで見聞きし、自らの作品をあのようなクラヴサン音楽に編曲する気になったのかも、と妄想が広がります。









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Last updated  December 10, 2023 09:42:00 PM
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