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カテゴリ:音楽
先週半ば、毎年恒例の研究集会が初めて水戸市民会館(茨城県水戸市)を会場にして開催され、亭主も久々に水戸を訪問。未音亭から水戸市内までは車で小一時間と近場ですが、同館は亭主にとっても初めて訪れる場所で、来館者用の駐車場もないとのことで、大事をとってJR常磐線を使うことに。電車が水戸駅に近づくと、ちょうど満開を迎えたらしい偕楽園の梅の花が車窓越しに乗客を楽しませてくれます。(白状すると、亭主は近くにン十年も住んでいながら、まだ偕楽園に行ったことがありません。…この季節に電車で水戸に来るのも初めてかも。)
案内によると、会場はJR水戸駅から歩いて20分程度とのこと。とはいえ、方向音痴の亭主としては、道に迷って遅刻しないよう路線バスで向かうことにし、4つぐらいの停留所で降りてみると、目の前にある真新しい感じの建物が水戸市民会館でした。 建物に入り、目的の講演会場を探してうろうろしている間にふと窓の外を眺めると、金属製の大きなテトラパックを積み重ねたような塔が目に入ります。その形からすぐに水戸芸術館のシンボルタワーだと目星がつきました。(案内図で近くにあることは知っていましたが、これほど近接しているとは知らず。) さて、研究集会の初日は講演・イベントがびっしりで会場を離れられませんでしたが、二日目は若干余裕があり、前日は雨天だった天候も回復したので、昼休みに散歩がてら水戸芸術館を訪ねることに。 同館はコンサートホールや劇場を擁する本館、シンボルタワー、および別棟の会議室が広場を囲むように配置されており、本館入り口はタワーとは反対側の道に面しています。入り口正面に回って建物全体を見回すと、全面タイル張りで幾何学的な形態の建築になんとなく既視感が漂います。それもそのはず、これら施設の設計を担当したのは磯崎新氏。彼の代表作として知られているのが「つくばセンタービル」(やはり未音亭のご近所にある)ですが、水戸芸術館の造作はまさにそれを彷彿とさせます。代表的な「ポストモダン建築」とも言われるつくばセンタービルが開業したのが1984年、水戸芸術館の開館も1990年とほぼ同時期で、まさに1980年代のバブル経済の遺産とも呼ぶべき建築群と言えるかも。 玄関を入るなり、正面に立ち現れるのがパイプオルガンです。見るからに巨大な楽器で、ストップ数46、パイプ総数3,283本と、日本人の手で作られたオルガンとしては国内最大級とか。(これもバブル経済期に起きたパイプオルガンの導入ブームを象徴する例と言えるでしょう。)入り口からオルガンまでの空間は高い吹き抜けになっており、中ほどに立つとヨーロッパで目にする教会の身廊に居るような錯覚を覚えます。オルガンをあえてコンサートホール内に入れず、このような空間に配した点は興味深く、設置者の意図が窺えるというもの。 残念ながら、当日は何も音楽イベントは予定されておらず、平日の昼間ということもあってか、オルガンが見下ろすエントランスホールとも呼ぶべきこの空間もほとんど人気がありませんでしたが、入り口と反対側の端(ミュージーアムショップの脇)には先日他界した同館の館長・小澤征爾氏の写真が飾られた献花台がまだ置かれていました。また、そこから壁沿いに彼と水戸室内管弦楽団の活動を振り返る写真パネルや演奏会のポスターが展示されていて、1990年の同楽団創設以来30年以上の長きにわたる活躍の様子を垣間見ることができました。 ミュージーアムショップでは、現代アートをモチーフにした文具、雑貨、さらには関連書籍を扱っています。亭主も暇つぶしに書籍コーナーで背表紙の題字を眺めていたところ、「ピアノの巨人 豊増昇」という本が数冊立っているのを目にし、思わず手に取りました。 豊増昇(1912—1975)は、少年時代の小澤征爾にピアノを教え、ラグビーの練習で指に怪我を負ってピアノが弾けないと落ち込んでいた小澤少年を「指揮者という道もある」と言って励ましたエピソードでも知られています。立ち読みしたところ、2013年に彼の生誕百年を記念したイベントが出身地の佐賀市で開催された際に、まだ当時存命だった豊増の妻(敏子未亡人、その後まもなく他界)に昔語りをしてもらい、それを小澤幹雄氏が聞き書きしてまとめた文章が目に入りました。(その他に、豊増の弟子だった舘野泉、小澤征爾、末吉保雄、久原興民らによる「恩師を語る」エッセーなどが収録されています。) その他、ショップには小澤征爾が指揮したCDがたくさん並べられ(どのジャケットもあのもじゃもじゃ頭の彼が指揮する上半身写真で飾られています)、関連書籍も置かれるなど、彼への追悼の念が随所に表されていました。 表に出ると、歩道上の掲示板には5月下旬に予定されているマルタ・アルゲリッチを迎えての演奏会の大判ポスターが貼られているのが目に入りました。あとで調べてみると、チケットはすでに完売とのこと。やはりこういう大物演奏家が来るとなると、このような地方都市でも人は集まるようです。 さて、クラシック音楽がハイカルチャーとして元気だった昭和時代の偉大な立役者である吉田秀和、小澤征爾という二人を失った水戸芸術館、今後の行く末は気になるところでもあります。隣接する市民会館内にも、大小の真新しいコンサートホールが設置されています。水戸市はこれらと芸術館の施設を一体的に運用できる立場にありますが、人口27万人の街でこのように多数のホールを満たすだけの興行開催を呼び寄せられるのだろうか、と他所ごとながら心配になります。(況してや、パイプオルガンの利活用という点ではより大きな課題を抱えることになる?) ここで穿った見方をすれば、新設の市民会館は築30年以上を経て老朽化した水戸芸術館に取ってかわる施設として整備されたとも思われます。だとすると、磯崎新のモニュメンタルな建築も今が見納めということかも? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
March 10, 2024 09:26:03 PM
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